始まりの街・7
「よそ見してる余裕なんてあるのかしら……──さぁ、まずはあなたの魔力から頂きましょうか」
全員の注意が街にそれているわずかな時間で、カナエに接近したヴェザが、カナエの耳元で囁いた。
反射的に後退しようと地面を蹴ったカナエだが、十分な距離を取る前に、ヴェザの細い手指がカナエの首を掴みあげる。
「くそっ……」
「カナエ! ぐっ──」
大剣を振りかぶり、ヴェザの腕を切り落とそうとしたジェノーべファだが、みぞおちに強烈な一撃を見舞われ、その場で崩れ落ちる。
「あんたは邪魔。どいてなさい」
膝をつくジェノーべファを見下すと、ヴェザはカナエの首を絞める力をじわじわと強くする。首筋に立てた爪が皮膚を裂き、ヴェザの指に血が滴る。
「カナエさんを離してください!」
魔装銃を構えた舞弥は、傷口の再生を妨害する魔力を込め、引き金をためらいなく引いた。
射出された魔力が、ヴェザの左足を貫通する。
「……傷の治りが遅いわ。魔力の効果をコントロールできるなんて、頑張って練習したのね……ますますその力、欲しくなったわ」
「カナエ!」
ヴェザはカナエを投げ捨て、指を伝う血を舐めとり、不気味な笑みを浮かべると、舞弥は先程とは比べ物にならないほどの不快感と恐怖に襲われる。息が上がり、心臓が異常なまでに強く鼓動する。
足がすくみ、舞弥はその場に座り込んでしまう。
「舞弥、動ける!? 逃げなきゃ……」
弄ぶように、ゆっくりとヴェザが歩み寄ってくる。
シエロは舞弥に肩を貸し、どうにか立ち上がらせるが、舞弥の身体は完全に萎縮しており、思うように足が動かせない。
「あんたも邪魔よ、どいてなさ──」
「──それはおれのセリフだ」
ジェノーべファの大剣が繰り出す横薙ぎが、シエロの頭を掴もうとしたヴェザの脇腹に直撃する。
刀身そのもので脇腹を殴られ、ヴェザは体勢を崩す。
うずくまったヴェザを見たジェノーべファは、萎縮している舞弥を抱き上げると、そのまま車の後部座席に放り込む。
「シエロ、ジェノ、早く乗れ!」
いつの間にか運転席に座っていたカナエが、咳をしながらエンジンをかける。
ジェノーべファとシエロが乗り込んだことを確認して、カナエは車を急発進させる。
「逃げてどうにかなるの!? ついてこられたら、街がもっと酷いことになるよ!」
「この状況なら、アリアも街にシールド張ってるだろ。さすがのヴェザでも、簡単に侵入できないはずだ」
「そうだけど! ──ううん、そうだね……ごめん」
助手席から後ろに身を乗り出して、ジェノーべファに問い詰めていたシエロだが、渋い顔をしながらも、自分を納得させるように何度もうなずく。
シエロの懸念はもっともだ。
しかし、身を隠す物すらない荒野で戦うより、アリアの支援を受けられる街で戦う方が、まだマシと言えるだろう。




