始まりの街・6
獅子の獣を倒した煌星と桜雪は、着物の袖で口と鼻を覆いながら、大通りを探して走っていた。
そこかしこから炎や砂煙が上がっており、視界も状況も悪くなる一方だ。それに加えて獣の臭いが強くなってきている。
このまま進んでも、また獣と戦うことになるかもしれない。
だが煌星と桜雪には、近くにいる獣の気配とは別に気になることがあった。
「ホシ、別の道を探そう。こっちに進んでも魔物と遭遇するだけだよ」
桜雪は何も持っていない無防備な煌星の手を一瞥する。
「ユキ、気付いてるだろ。向こうから人の気配もする」
「わかってる、けどだめだよ。あんな獣だらけのところにいる人が無事なはずない。いつまでこんな状況が続くかわからないのに、怪我人助けてる余裕なんてないよ! 魔獣だってずっと召喚できるわけじゃないでしょ?」
獣に囲まれている人間を助けてから、大通りを目指そうと煌星が提案する前に、桜雪は煌星に詰め寄る。
桜雪が口にした魔獣とは、先程の戦闘で煌星が召喚した雹姫のような、魔獣士の呼びかけに応じて現れる、魔力の集合体の総称である。
魔獣を召喚している間、魔獣士は継続的に魔力を消費するため、桜雪の言う通り、魔獣は常に召喚していられるわけではない。
「ユキ、頼む。助けに行かせてくれ」
小柄な桜雪は、煌星の顔を見上げて見つめたあと、大きな瞳を伏せて少しの間、沈黙する。
「……わかった。でも走れない人だったら置いていく。ホシの安全が最優先だよ」
眉間にシワを寄せた桜雪の表情は真剣そのものだ。
煌星が感謝を伝えると、二人は獣の気配のする方向に走り出す。
「いたぞ」
「囲まれてる……」
獣臭の発生源にたどり着いた煌星と桜雪は、後ろ足が異常に発達した獣と、黒一色の見慣れない服を着た少年を見つけた。
どうやら少年は目の前で倒れている獣に気を取られ、背後に近づく獣には気づいていないようだ。
「ホシ、受け取って!」
「頼んだぞ」
桜雪は湾曲した切っ先の双刀を、ブーメランの要領で獣に目掛けて投げ飛ばし、得物の回収を煌星に託す。
通路を塞ぐ獣の死角を縫って、桜雪が走り始めると、咆哮を轟かせた獣は少年を踏み潰そうと足をあげた。
十字路のど真ん中で萎縮して動けなくなっている少年を、建物の影に押し倒した桜雪は、そのまま庇うように彼の体を覆う。
肉を断つ生々しい音と、獣の悲鳴が聞こえる。
双刀が弧を描き、煌星の手元に戻ると、煌星は間髪入れずに猛攻を繰り広げる。
「きみ、怪我は?」
「え……大丈夫」
咄嗟の出来事に、金色の髪に琥珀のような瞳の少年は呆気に取られている。
「ならよかった」
思ってもいないことを口にしながら、桜雪は立ち上がって埃を払う。
「あ、ありがとう……おれマオって名前。あんたは?」
煌星が槍を持っていれば、桜雪はこの少年を助けることに不満を抱くことはなかったのだが、現に煌星は丸腰だ。
煌星と自分の身を守ることで手一杯の桜雪からすれば、このマオと名乗る少年を何とかして置いていきたいところだが、煌星と約束してしまった以上、そうする訳にもいかない。
「向こうで戦ってる彼は煌星。あたしは桜雪。──きみ、あたしたちを守護者のところまで連れて行ってくれないかな」
「う、うん……わかった」




