始まりの街・4
「ねぇ、なんで街に魔物が入ってきてるの!?」
「守護者と門番は何してんだよ! 街に魔物が入ってこれないようにするのが仕事だろ!」
「わたし、門番が車で街の外に出たのを見たわ! もしかして、こうなることがわかってて逃げたんじゃ……」
突然壁の中に魔物が現れ、街中は混乱していた。家は倒壊し、火があらゆる物を飲み込んで、轟々と燃え盛っている。
街の人々は、神殿と呼ばれる、アリアの暮らす巨大な建物を目指し、罵声を撒き散らしながら脇目も振らずに逃げていく。
「そこの黒装束のあなた! 何ぼさっとしてるのよ! 門番なら早く魔物をどうにかしなさいよ!」
人の流れに逆らいながら立ち尽くすクリーム色のマッシュヘアの少年に、初老の女性が必死の形相で詰め寄る。
黒装束に身を包んだ舞緒の右手には、碧い輝石の埋め込まれた、魔装銃と呼ばれる、魔力を装填し、射出する特殊な銃が握られている。
「アリアは舞弥たちが狩りに出てすぐに、街を魔力で覆ったはずだ。なのになんで、壁の中に魔物が……」
アリアと共に生活している舞緒は、神殿を出る前にアリアから聞いた街の状況より、遥かに酷い現場を見て、混乱していた。
守護者と呼ばれるアリアには、本来形のない魔力を実体に変換する特殊な力が備わっている。
アリアはこの力を応用し、門番──ジェノーべファたち四人が壁の外に出ている間は、魔力のシールドで文字通り街を覆い、不測の事態に備えて守りを固めている。
魔物の魔力とアリアの魔力が反発しあい、シールドが存在する限り、魔物の侵入を防ぐことができる。
だが実際に、何らかの方法で街に侵入した魔物は、街で暴れまわり、破壊の限りを尽くしている。
「ちょっとあんた、聞いてるの!? なんでこんな事になったのか、説明しなさいよ!」
何も返事をしない舞緒に痺れをきらした女性が、舞緒の肩に掴みかかる直前で、近くの建物が崩れ落ち、辺りから悲鳴があがる。
「そうだ、こんなこと考えてる場合じゃないんだ……オバサン、さっさとここから離れて」
家が潰される大きな音を聞いて、舞緒はようやく我に返る。
先程まで舞緒を睨んでいた女性は、近づく魔物の脅威を前に、完全に萎縮してしまっている。
舞緒は左手で女性の背中を叩き、その場を離れる。
「家も壊せちゃうような魔物、おれだけでどうにかできるか?」
アリアの子供の中で、一番魔力の少ない舞緒は、実戦経験に乏しい。
だが、そうこう言っている場合では無い。
徐々に強くなる魔物の気配に、舞緒の足取りは慎重になる。
「見つけた……まだ俺に気づいてない……」
魔物の視界に入らないよう、舞緒は一度建物の影に隠れて、首からぶら下げていたゴーグルを装着する。
近くの建物が壊されたばかりで、魔物の周辺には土埃が立ち込めている。
「とびっきりのをくれてやる……」
舞緒が魔装銃に埋め込まれた碧い輝石に手をかざす。
この碧い輝石には大量の魔力が貯まっており、舞緒の魔力に反応して、輝石から魔装銃に魔力が供給される仕組みになっている。
たくましく発達した後ろ足とは対照に、異常なまでに小さな前足の魔物は、夢中で何かを貪っているため、舞緒には気づいていない様子だ。
──こんな体型なら、後ろ足のどっちかに怪我させたら、暴れられなくなるはず……。
舞緒は魔物の背後から右後ろ足を狙い、引き金を引く。
膨大な魔力の弾丸は、舞緒の狙い通り右足を穿つ。
左足だけでは体重を支えきれなくなった魔物は、そのまま横転する。
「よし! 頭に一発撃ち込めば──」
舞緒の言葉は、威嚇するかのような咆哮にかき消される。
目の前の魔物に夢中になっていた舞緒の後ろから、巨大な足音が近づいてくる。
舞緒は咄嗟に、輝石に手をかざしながら振り仰ぐ。
横転している魔物と同種の魔物が、舞緒を踏み潰そうと後ろ足を持ち上げている。
攻撃も回避も絶対に間に合わない。舞緒は頭を庇うように両腕をあげる。




