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女神の堕ちる空  作者: ニンニクゴハン
一章 始まりの街
3/18

始まりの街・3

 艶のある白髪を綺麗に結い上げた、健康的な褐色の肌の青年は、薪の()ぜるような音で目を覚ます。


「あれ、おれ……? ──ここは……?」


 酷い頭痛に頭を抱えながら、煌星(こうせい)は体を起こして、ぼやける視界で辺りを見渡す。


 どうやら石畳の張られた、広場のような場所で眠っていたようだ。特に装飾や絵柄のない、青の着物と紺色の袴は土で汚れてしまっている。


 全く見覚えのない街並みや建物に戸惑う煌星だが、少し離れた場所で、馴染みのある、桜色の長い髪の女性が横たわっているのを見つけ、慌てて駆け寄る。


 淡い黄緑の着物と、ブラウンの袴を身にまとった女性の上半身を起こし、端正な顔についた汚れを少し乱暴に拭いとる。


「ユキ、起きろ。無事か?」

「うぅ〜、ホシ……?」


 煌星の呼び掛けに反応して、桜雪(おうせつ)のまぶたが持ち上がる。


「えぇ、なにここ、どこ?」


 桜雪は煌星の手から離れると、困惑した表情でキョロキョロと街の様子を伺っている。


 確か先程まで桜雪と共に、里を見回っていたはずなのだが、気がつけば全く知らない石畳の上で、二人揃って倒れていた。


 間違いなく二人の住む里に、このような建造物は存在しない。


「とりあえず人を探そう。それに、何か燃える臭いが──!」

「うわっ!」


 煌星の言葉を遮るように、近くの建物が倒壊し、土煙があがる。

 崩れた建物から出た火が、植物や別の建物に燃え移り、辺りがどんどんと焦げ臭くなっていく。


 しかし、臭うのはそれだけではない。

 物が燃える臭いの中に、強烈な臭いが混じっている。


「ホシ、この臭い……」

「あぁ……獣が近くまで来てる」

「槍は?」

「見当たらないんだ」


 桜雪は転がっていた得物を拾いあげ、煌星を背中で庇うように、獣臭のする方向を睨んでいる。


 獣はあらゆる建物を破壊しながら、確実に煌星と桜雪に近づいてきている。

 背後の火の海がジワジワと近づいてきている。熱気と共にパチパチと燃える音が聞こえてくる。


「来るよ!」

「あぁ!」


 獅子のような巨躯の獣が、煌星と桜雪に狙いを定め、あらゆる物を薙ぎ倒しながら突進してくる。


 煌星と桜雪は地を蹴り左右に別れ、獣の突進を難なくかわす。


「でか! きたな! しかも臭い!」

「嗅いだことない臭いだな」


 獅子の獣は目を血走らせ、ヨダレの垂れる口で咆哮をあげる。

 獣臭のなかに、鼻を突くような異臭を感じる。


 桜雪は獣の眼前に踊りでると、しなやかな動きで湾曲の双刀を振り、獣の顔面や前足をためらいなく斬り裂く。


「邪魔だよ!」


 痛みで怯んだ獣は、前足を浮かせて仰け反る。

 間髪入れずに、桜雪は舞うように腹部の肉に刃を滑り込ませる。


 このわずかな時間で相当な傷を負った獣は、怒りに震えるかのように、再度咆哮をあげる。


 身体が大きいだけあって、多少の攻撃では倒れないようだ。


 背後の火はかなり近くなっている。ゆっくり戦っている時間はないようだ。


「ユキ」

「うん、任せたよ」


 煌星と桜雪がほんの一瞬だけ目を合わせてうなずくと、桜雪は双刀を構えなおし、獣の間合いにためらいなく飛び込んでいく。


 ひらひらと舞う桜雪を見失った獣は、仁王立ちで目をつむっている煌星にターゲットを切り替える。


 獣の爪が煌星の身体を引き裂こうとした時──


「──来い、雹姫(ひょうき)


 煌星の身体に蒼白い光の紋様が浮かびあがると、呼び掛けに応えるように、突如として冷気をまとった蒼い肌の美しい女性が現れる。


 何も無い空間から現れた女性に、獣が少し怯む。


 グラスの中で氷が崩れるような音と共に、雹姫と呼ばれた女性は笑みを浮かべると、獣の頭上に大量の氷柱が出現する。


 無数の氷柱が次々と獣に降り注ぎ、獣は為す術なくその場に崩れ落ちた。


 雹姫は振り返ると、何か言いたそうに煌星を見つめる。


「暑いから帰りたい、か。わかったよ、戻れ」


 満足気な笑みを浮かべた雹姫は氷塵(ひょうじん)となり、姿を消した。

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