始まりの街・2
四人の男女を乗せた一台の車が、広大な荒野を走行している。
車には天井がなく、四人の髪は風でなびいている。
運転席に座るジェノーベファは、目にかかる藍色の髪を掻き上る。髪で隠れていた額が露わになり、少し汗ばむ肌で初夏の風を感じる。
「うあ〜、気持ちいいね〜」
癖のある鮮烈な赤い髪をサイドに結い上げたシエロは、後部座席で大きく伸びをする。
シエロの隣に座るクリーム色の髪の少女マヤも、風を浴びて心地よさそうな表情をしている。
「夕方から雨ってアリアも言ってたし、早く済ませよう」
銀髪を短く切りそろえたカナエは、助手席で空を見上げていた。
四人はそれぞれ特徴の違う、黒一色の装束を身にまとい、かたわらには武器を携えている。
「あぁ、そうだな」
雲ひとつない快晴だが、本当に雨なんて降るのだろうか。
ジェノーべファは母に教えてもらった天気予報を疑いながら、周囲を見渡す。
「昨日は街の外にいっぱい魔物いたのに、今日は全然いませんね」
バックミラーに映るマヤの表情は訝しげだ。
ジェノーべファたちの住む街は、巨大な壁で囲まれており、出入口は大きな門が一つだけだ。
その壁ができたのは八年前、〝厄災〟と呼ばれる悲劇が起きた時だ。
浴びた者の命を奪う死の雨が一ヶ月もの間降り続け、次第に草花は枯れ、平原を駆ける生き物は倒れ、人間の半数が死んだ。
その雨と同時に、魔物と呼ばれる、どの生態系にも属さない新たな生き物が突如出現し、死の雨から逃れた人間を襲っていた。
生き残った人間を魔物の歯牙から護るために、アリアは街を囲む壁を造ったのだ。
〝厄災〟で身寄りをなくしたジェノーべファたち四人はアリアに引き取られ、今ではもう一人の母親のように慕っている。
永きに渡り街を護る一族の出身であるアリアに頼まれ、とりわけ上手く魔力を扱えるジェノーべファたちは門番と呼ばれ、魔物狩りをしている。
魔力と一口に言っても種類は様々だ。
ジェノーべファの魔力は肉体の強化に優れており、シエロの魔力は、炎や氷、雷に水と言った〝魔法〟を操る力に長けている。
カナエとマヤは少し特殊な魔力の持ち主で、カナエは肉体の強化と魔法が使える。
マヤは魔力同士の反応を利用し、傷の治りを早くしたり、逆に対象の魔力を乱して行動を阻害することができる。
街にも魔力を持つ人間は沢山いるが、ジェノーべファたちのように魔力制御の鍛錬はしていないため、魔物と渡り合うことはできない。それに、魔力の制御にもある程度の才能が必要だ。
ジェノーべファたちは街の近くを移動している魔物を駆除しながら、それなりにいい生活を送っていた。
「ねぇジェノーべファ。この前言ったこと考え直してくれた? 一緒に学校行こうよ」
「何回も言ってるだろ。行かない」
最近のシエロは話しかけてきたかと思えば、このことばかりだ。
ジェノーべファはシエロにも聞こえるように、大きなため息を吐く。
「でもいつか魔物を滅ぼせたら、今みたいに魔物のイロイロを売って生活するなんてできないんだよ」
「何も食わなくても生きていける魔物が、本気で滅ぶと思ってるのか」
ジェノーべファの悪態に、シエロの眉間にシワが寄る。
ジェノーべファも、シエロの言い分が正しいことはわかっている。それでも学校に行かないのは、彼なりの理由があるからだ。
「急に現れたんだから、急に消えることだって有り得るでしょ! それにこんな生き方、長く続けられないよ。わかってるでしょ?」
「まぁまぁ、シエロさん落ち着いて……」
「でも!」
まだ何か言いたげな様子のシエロを、マヤは困った顔でなだめている。
「おい、ジェノ。あそこ」
「……人か?」
カナエが話を遮り、真っ直ぐ先を指差す。
遠くて性別まではわからないが、人間が立っている。
「なんだアイツ……」
先程とは打って変わって、四人に緊張が走る。
街を出るだけでも危険だというのに、その人影は武器すら持っていない。
だと言うのに、足元には無数の魔物の死体が転がっていた。




