始まりの街・18
マオに地下室に来るようにと言われたジェノーべファとコウセイとオウセツは、出立の準備を済ませ、アリアの元へと向かっていた。
これから大きな困難に立ち向かうであろうジェノーべファの足取りは少し重く、夜が明けてようやく帰郷できるコウセイとオウセツの足取りはとても軽やかだ。
「よう、三人ともやっと来たか」
「なんでお前がいるんだ?」
「ほら、今の神界ってどうなってるかわかんないだろ、おれも三人と一緒に行こうと思ってさ」
地下室の扉を開くと、アリアよりも先に、カナエがジェノーべファたちを出迎える。地下室には既に、シエロとマヤとマオの姿もある。
カナエの提案をコウセイとオウセツも笑顔で快諾する。
「アリア、それが神界と〝ナバ〟を繋ぐ扉ってやつか?」
地下室には、神殿で八年間生活していたジェノーべファですら見たことのない、仰々しさすら感じる扉が地下室に出現していた。
本来、魔力を感知できるのはマヤとマオだけだが、魔力の感知能力がないジェノーべファですらも、この扉が膨大な魔力でできていることは、説明されずとも肌で理解できた。
こんな魔力の塊のような物を、人の力では創造することは不可能だ。
改めてアリアが、人間よりも上位の存在であることを、ジェノーべファは思い知る。
「ええ、そうよ。予想通り神界も何かあったみたいで、なかなか扉が安定しなかったのだけれど、今はマヤの力で安定させているわ」
「結晶の魔法か……」
扉に両手を添えて、集中して向き合っているマヤを一瞥したジェノーべファが、半ば独り言のようにつぶやくと、アリアは首を縦に振る。
「マヤのためにも、コウセイたち見送って、さっさと話聞いて帰ってこようぜ」
「そうだな」
「じゃあ、アリアとシエロちゃんと、マヤちゃんマオくんとはここでお別れだね」
「短い間だが世話になった。みんなの武運を〝セイクツ〟の里から祈っている」
わずかな時間を共にしただけだが、それでもコウセイとオウセツは背筋を伸ばし、アリアたち四人に折り目正しく別れの言葉を告げる。
「どうか気をつけてね、キサナにもよろしく伝えておいて」
「コウセイくん、オウセツちゃんありがとう!」
「ここからですみません、おふたりともお元気で!」
扉から手を離すことのできないマヤの分まで、アリアとマオがコウセイたちとしっかり握手する。
「ねぇ、ふたりが〝ナバ〟の生まれの人だったら、あたしたち最初から嫌な思いもせずに生きられたのかな……」
消え入りそうな声で本心を吐露するシエロは、まるで縋るようにオウセツの服の袖を、震える手で握る。
「きっとそれはないんじゃないかな。昨日あたしが言ったことは、敬意を払われる立場の人間として生まれたからこそ、大人に教えてもらったり、自分で学んだりした考え方なだけ。
生まれた場所が違えば、あたしからあの言葉は出てこなかっただろうし、もしかしたらシエロちゃんを傷つける立場だったかもしれない」
「そっか……」
シエロが望んでいる答えではないことを理解しながら、オウセツはあくまでも現実的な言葉を口にする。
爪先を見つめて、拳を握りしめるシエロを励ますように、オウセツはシエロの頭に優しく手を置く。
「だから、出会ったのが今でよかったんだよ」
「そっか……そうだよね……ありがとう!」
目のふちを濡らす涙を拭い、シエロは感謝と別れの言葉を口にする。
「もう平気?」
「ひとつだけ、訊きたいことがあるの。コウセイとオウセツの名前ってどう書くの? 会話に使う言葉は同じだけど、読み書きに使う文字は違うって、さっきアリアに教えてもらったんだ」
「煌く星で煌星だ」
「あたしは桜の雪で、桜雪だよ! 文字の形はこうで……」
シエロがあらかじめ用意していた紙とペンを受け取ると、ふたりは少し大き目な文字で、自分の名前を記す。
「そろそろ行くぞ」
すでに扉をくぐっているジェノーベファとカナエは、無意識に煌星と桜雪を引き留めてしまっているシエロにも聞こえるように、声をかける。
扉のなかは暗く、出口も見えないものの、どこかから降り注ぐわずかな光が、ジェノーベファたちの足元を照らしている。
帰郷に胸を躍らせる煌星と桜雪は、躊躇いなく暗がりに足を踏み入れる。




