始まりの街・16
壁に突き刺さったオウセツの刀を回収して、無事にコウセイたちを部屋に案内したジェノーべファ一行は、お互いの様子を探るような沈黙のまま、自室に向かっていた。
「オウセツが言ってたことって、もっと欲張れってことか?」
シエロと並んで歩いているカナエが、誰に言うともなしに、ぽつりと呟く。
「極端な言い方をすればそんな感じだろうな」
「でも力で支配するのは違うって言ってたし、オウセツちゃんの言ってることって結構難しいな~」
「そうだね、難しいね。でもマオがオウセツさんに向かって、雰囲気が有るって言ってた意味はわかった気がする」
「あ、わかった? コウセイくんは戦ってる最中もあんまり変わらないんだけど、桜雪ちゃんの豹変っぷりはすごいんだよな~」
コウセイとオウセツと共に魔物と戦ったマオは、ようやく第三者からの同意を得られて、嬉しそうな表情をしている。
花や身長の話を笑顔でしていたオウセツと、野次馬に囲まれても怯むどころか、眉ひとつ動かさずに大男を下し、ジェノーべファの本心を引きずり出したオウセツが同一人物とは、にわかに信じ難い。
「オウセツはあの時、なんでお前に訊いたんだろうな」
「さぁな。ただ、シエロたちがこっちに来た時に、オウセツと目があったんだ。理由があるならそれくらいだろ」
「まぁ何であれ、お前が言ってくれてスッキリしたわ。ありがとな、ジェノ」
カナエに軽く背中を叩かれたジェノーべファは、姿勢を正して足を止める。
緊張で早まる鼓動の音に気持ちが負けないように、四人の顔を見ながら、ジェノーべファは声を絞り出す。
「おれがもっと早く、街の人たちに何か言えていれば、お前らが不快な思いをしなくて済んだんだ。特にマヤとマオには悪い事をした。済まなかった」
「ジェノが謝ったら、おれとシエロも謝らなきゃいけない流れになるだろ〜?」
「え〜あたしは謝ってもらう立場がいい〜! ──でも、あたしたちが我慢したせいで、ずっと嫌な思いさせてたもんね。ごめんね、マヤ、マオ」
「おれもごめんな、お兄ちゃん失格だわ。今日からスーパーお兄ちゃん目指すから、ちゃんと見ててくれよ〜」
シエロが双子の頭を優しく撫でているのを見たカナエは、髪がぐちゃぐちゃになるまでマヤとマオの頭をこねくり回す。
「も〜カナエくん! ボサボサになっちゃったじゃん!」
「目が回る〜」
「こんだけボサボサなら、もうどうなっても一緒だろ! 昔みたいにジェノも頭撫でてやれよ」
カナエに煽られたジェノーべファは、少したどたどしい手つきでマヤとマオの頭を触る。
「ふたりとも、知らない間にデカくなったな……」
「何それ、ジェノーべファおじさん臭いよ〜」
「おれ一六八センチ!」
「わたしは一六〇センチです!」
「マヤもマオも、まだまだ大きくなれるな!」
肺を満たし、息苦しささえも感じさせた重苦しい沈黙は消え、五人はすっかりと普段の和気あいあいとした雰囲気を取り戻していた。




