始まりの街・13
改めて地下室に人数分のイスと追加のお茶やお菓子を持ち込み、ジェノーべファたちは難しい話を中断して、少し休憩していた。
壁の内側に魔物が発生したことや、ヴェザ自らの襲撃に加え、神や守護者と言った人間とは違う存在の話で、ジェノーべファたち五人の脳は完全に疲弊している。
「オウセツちゃん、これ食べてみて!」
「ありがとう」
その間もオウセツは体勢を崩さずに、コウセイの後ろに控えているが、マオが試しにクッキーを渡してみれば、すんなりと口に入れた。
「うん、おいしい。サクサクだね」
「オウセツさん、わたしたちが離れてすぐに、ヴェザの魔力反応も消えてますし、街の中にももう魔物はいません。少し休みませんか?」
マヤが気を使ってオウセツの顔を覗き込むが、オウセツは何も言わずに首を横に振る。
「ねぇアリア。魔女は自分がここに来たことによって、魔物が現れるって言ってたけど、時間差でまた魔物が出てきたりしないのかな?」
「ヴェザの魔力に反応して魔物が発生するのなら、今さら魔物が現れるとは考えにくいわ。
一応、カナエとシエロが戻る前に、オウセツにもこの事は伝えてはいるし、コウセイも説得してくれたのだけれど……」
「じゃあ、そこまでビクビクしなくてもいいってことか〜」
シエロはホッとした表情でティーカップに口をつける。
説明を受けてコウセイから説得されたうえで、臨戦態勢を解かないのなら、こちらからは何も言えまい。
話しかければ応えるし、場の雰囲気を悪くすることもないため、ジェノーべファからは特に言うことはない。
「コウセイとオウセツの故郷ってどんなとこだったんだ?」
「どんなところ、か……。こんなに大きくて頑丈な建物はないな。その代わりってわけじゃないが、森と山に囲まれてて野生の動物が沢山いる」
「その野生動物って、魔物とは別の生き物か!?」
カナエの勢いに少し驚きながら、コウセイはこくりとうなずく。
「いいな〜野生動物か〜……〝厄災〟の時に、屋根の下に避難してた家畜以外、みんな滅んじゃったから、もう随分見てねぇなぁ」
「ごく稀にキサナの魔力に充てられた動物が魔物化することはあるらしいが、実際に魔物を見たのは今日が初めてだ」
「だね」
動物が大好きなカナエは、羨ましそうな顔をしながら無気力にテーブルに突っ伏す。
「おれたちの里に来たら見れるぞ」
「うん、今日はキツネの親子が森で走り回ってたね」
「なにそれ! 羨ましすぎる……なぁアリア〜どうやったら〝セイクツ〟に行けるんだ〜」
「カナエくんの動機はどうかと思うけど、あたしたちもそろそろ里に帰りたいし、それは気になる」
アリアは眉間にシワを寄せて、しばらく黙り込んでから口を開く。
「〝ナバ〟から直接〝セイクツ〟に行くことはまず不可能よ。
神界にはそれぞれの世界に通じる道があるから、一度お父様を訪ねて、通してもらえるようにお願いするしかないわね」
「神界か……人間が踏み入っていい場所なのか?」
「入ることは構わないわ。ただ、魔力の濃度がとても高い空間だから、人が長居すれば何かしらの悪影響がでるわね」
コウセイとオウセツは、ほんの一瞬目を合わせると静かにうなずきあい、アリアに向き直る。
「アリア、おれたちを神界まで案内してください」
「お願いします」
「もちろんよ。ただ、今は世界が不安定になっているせいで、私は地下室から動けないの。だから神界までの扉を開くだけになるけれど、それでいいかしら」
コウセイとオウセツは、アリアに向けて下げていた頭を上げて、感謝の言葉を口にする。
「ジェノーべファ、ふたりと一緒に神界に行ってきてもらえるかしら。ヴェザが襲撃してきたということは、ヴェザの相手をしていたお兄様に何かあったはずよ。今後について、お父様と話してきてほしいの」
「わかった」
ジェノーべファは温かい紅茶を飲みながら、アリアの頼みに応じる。
「ねぇアリア、世界が不安定でも守護者がいれば、いずれその世界は安定するの?」
「少し違うわ、シエロ。私には、魔力を物質に変換したり、物質を魔力に変換する力とは別に、〝崩壊を防ぐ〟権能があるの。
私の意思に関係なく発動するし、発動している原因まではわからないのだけれど、今回は間違いなくヴェザが原因ね。
〝厄災〟の時は、丁度神殿の真上の外殻が、ヴェザに破られたのだけれど、権能が発動してすぐに塞がったわ」
八年前、死の雨を降らせる真っ黒な雲の上では、人間の力では到底なし得ない破壊行為が行われていたのだと思うと、少し怖気がする。
「少し休憩してからこの話をしようと思っていたのだけれど、お茶を飲み終える前に済んでしまったわね」
「じゃあ今から神界に行けるのか?」
「いいえ、コウセイとオウセツには悪いのだけれど、今日はしっかりと身体を休めてちょうだい。戦って疲れた身体で神界に入れば、あっという間に魔力に毒されてしまうわ」
「そうか、なら仕方ないな……」
コウセイは自分を納得させるように、何度かうなずいてから逸る気持ちを飲み込む。




