始まりの街・12
「なのに、目が覚めたらあたしたちは〝ナバ〟にいた。そのヴェザって魔女が原因なのかもだけど、今はこの事考えても仕方ないよ。
それよりも、どうして八年前に一度攻め込まれてるのに、アリアは何も手を打たなかったの?」
言葉遣いこそ柔らかいが、コウセイと同様にオウセツの声音からは、アリアを詰るような冷たさを感じる。
「ちょっと待ってオウセツ、そんなキツい言い方しないで!──〝厄災〟の時は、たくさんの人が死んじゃって、アリアだって街を護るので精一杯だったんだよ!」
「なら街を立て直してから追撃するなり、きみたちみたいな強い人をもっとたくさん育てたり、他の守護者に復旧を手助けしてもらえばよかったんじゃないかな。
少なくともキサナからは、アリアに助けを求められたって話は聞かなかったよ。
何か一つでも手を打っていれば、今頃この街はこんなに酷いことにはなってなかったかもしれない」
「それはそうかもだけど……!」
反論の余地もないオウセツの正論に、シエロは返す言葉を失ってしまう。
「ユキ、言い過ぎだ。──すまないな、シエロ。それにみんなも、おれたちの意見を不快に感じたなら謝る。
おれたちは里の人たちの上に立つ身分だから、実際に街を護って戦ってるみんなに、アリアは自分のことを説明してなかったり、そもそも打っている対策が少ない理由が気になるんだ」
呼吸が詰まるような、ずっしりと重い沈黙が部屋の空気を満たす。
コウセイとオウセツに指摘されて初めて、ジェノーべファは自分たちが何も知らないことを知った。
果たしてそんな自分たちが、アリアに答えを催促してもいいのだろうかという考えが、ジェノーべファの脳裏をよぎる
「私もお兄様と共に追撃させてもらえるように、何度も頼んだわ。けれど私には守護者として〝ナバ〟の人たちの命を護る使命がある。
使命を放棄すれば、たくさんの人たちの命を危険に晒すことになるから、許してもらえなかったの。
他の守護者に連絡をしなかったのは、そうしたことによって、他の世界にも魔女の被害が及ぶ可能性があるかもしれないからよ。
──その代わり……ではないのだけれど、有事に備えて少数精鋭の戦士たちを育てておくようにお兄様から頼まれたの。それがあなたたちよ」
アリアは、ジェノーべファ、カナエ、シエロ、マヤ、マオのそれぞれの顔に視線を移す。
「あなたたちに私の事をきちんと教えなかったのも、知れば魔女に何をされるかわからなかったからよ。私の正体がバレないように嘘を吐く必要があったから、育てる戦士をあなたたち五人に絞ったの。
──八年前、生きる術を欲したあなたたちの心に付け入って、騙すようなことをして、本当にごめんなさい」
アリアは深々と頭を下げる。
ジェノーべファの目には、その肩は少し震えているように映る。
「確かに、おれたちはいい具合に騙されてたのかもしれない。けど、おれたちはなんでもいいから生き残るための力が欲しかったし、アリアはおれたちに力を与えてくれた。
だから、感謝こそすれ恨んでないさ。な、ジェノ?」
「あぁ、そうだな」
「おれもカナエくんとジェノくんと同じ気持ち!」
ずっと立ったまま話を聞いていたジェノーべファに近づき、カナエはジェノーべファの肩に肘を乗せて寄りかかる。
マオもその場で立ち上がり、気持ちを露わにする。
「シエロちゃんとマヤは?」
「わたしもマオと同じ気持ち。あの時のわたしはアリアに助けてもらえなかったら死んでたかもしれないから、なおさらだよ」
マヤが朗らかな笑顔を浮かべながら、マオの質問に答えると、よく言ったと言わんばかりに、カナエがマヤの頭をぐりぐりと撫でる。
「あたしは……あ〜、ううん。あたしもすごく感謝してるよ! ありがとう、アリア!」
「ほら、シエロちゃんもこう言ってるよ! だから顔上げてよ、アリア」
マオの言葉でアリアは顔を上げると、袖で目元を乱暴に擦る。
「それぞれにちゃんと理由があったんだな。追い詰めるような言い方をして済まなかった。許してくれ」
「あたしも言いすぎたよ。ごめんなさい、アリア」
立ち上がったコウセイとオウセツが頭を下げる。
「いいえ、あなたたちふたりのおかげで、本当のことを伝えるきっかけができたわ、ありがとう。──それに五人も、本当にありがとう」
肩の荷が降りたのか、少し目元は赤いものの、先程とは打って変わってアリアは晴れ晴れとした微笑みを浮かべる。




