始まりの街・11
地下室の扉を開けると、簡易テーブルとイスを並べて休憩している五人の姿があった。
「おかえりなさい、ジェノーべファ、マヤ」
「ただいま、アリア! みんなで何食べてるんですか?」
ジェノーべファはコウセイの後ろに控えているオウセツとほんの一瞬目が合う。
「おかえり。無事でなによりだよ」
「え……あぁ、ただいま」
意外にもオウセツから帰還を祝福され、ジェノーべファは少したじろいでしまう。
ジェノーべファが驚いているのを知ってか知らずか、オウセツはジェノーべファが挨拶を言い終える前に目を伏せる。
半ば仁王立ちのような体勢で、腰の後ろに下げた双刀をいつでも抜刀できるように、オウセツは常に姿勢を崩さずに後ろで手を組んでいる。
その警戒心の高さは評価するべきだろうと思いながら、ジェノーべファはシエロに渡された質素な焼き菓子を口に放り込む。
「街の状態は想像以上に酷いな。もう一度ヴェザに襲撃されれば、街そのものが持たないぞ」
「そうね、その事であなた達に話したいことがあるのだけれど、いいかしら」
イスから立ったアリアは、護りの間にいる七人の顔をゆっくりと見渡す。
そのアリアの表情からは、後ろめたさのようなものをジェノーべファは感じる。
「八年前〝ナバ〟と呼ばれるこの大陸に、魔物と死の雨をもたらした首謀者は、本人が言った通り〝魔女・ヴェザ〟で間違いないわ。
魔女とは、強すぎる力に溺れてしまい、本来の果たすべき使命を完全に見失っている者を指す言葉よ。
──どうやらヴェザも、一族のひとりらしいのだけれど、私は八年前にお兄様から名前を教わっただけで、面識はないわ」
「お兄様? 守護者の一族は、もうアリアしかいないんじゃないのか?」
ジェノーべファはアリアの次の言葉を待たずに、質問を口にする。コウセイとオウセツ以外の四人も同じく疑問に感じていたようで、視線がアリアに集中する。
「それは……」
「──まさかとは思うが、五人とも、守護者がどういう存在なのか知らないのか?」
言い淀むアリアを見かねたのか、コウセイは眉間にシワを寄せて口を開く。
コウセイの言葉は五人に向けられたものだが、その語気からは、アリアを非難するような鋭さを感じる。
「代々、街を護る一族としか……血の繋がった家族も、もう誰もいないって聞いてる……」
「それはシエロちゃんだけじゃなくて、他のみんなもそう聞いてるの?」
オウセツが全員に投げかけた言葉をカナエが肯定すると、コウセイとオウセツは神妙な顔で目を合わせる。
「守護者とは、父なる神デオシャと、母なる神サガモアより創り出された、神とも人間とも違う存在だ。
──守護者は自我を持つと同時に、権能と世界を与えられる。
自身に与えられた世界で、人間が滅んでしまわないように管理するのが、守護者の務めらしい」
「コウセイもオウセツも、なんでそんなこと知ってるんだ?」
淡々と述べるコウセイに、カナエが質問をすると、後ろに控えていたオウセツが口を開く。
「あたしたちは、キサナに教えてもらったんだよ。〝セイクツ〟っていう、ここじゃない世界の守護者だよ。
〝セイクツ〟と〝ナバ〟との間には、〝チーニア〟と〝ザンコパ〟って世界が並んでるんだって」
「世界が並んでる? 並ぶって今のあたしたちみたいに?」
シエロは混乱した様子だが、無理もないだろう。
現にジェノーべファも、あまりにもスケールの大きい話に動揺している。
「ええ、お父様やお兄様の住まう神殿から扇状に広がり、〝ナバ〟〝チーニア〟〝ザンコパ〟〝セイクツ〟の順に、横に並んでいるの」
「それって、四つの世界は地続きにあるってこと?」
マオの質問に、アリアは首を横に振る。
「世界は丸い外殻に包まれて、それぞれが独立しているの。
だから〝ナバ〟を一直線に歩き続けても、〝チーニア〟にたどり着くことはないわ。
当然、それぞれの世界にはそれぞれの文化や文明があるから、それらが混ざってしまわないように、人間は他の世界を行き来できないことになっているのだけれど……」
アリアはふたりの異邦の客人に視線を移す。




