始まりの街・10
「アリア、戻ったよ」
「おかえりなさい、マオも煌星も桜雪も無事でよかったわ」
煌星と桜雪は、二時間ほど前にマオに案内された地下の部屋に再び訪れていた。
どうやら他の者たちはまだ戻っていないようだ。
「ずっとここにいたのか? 息、詰まるだろ」
部屋を灯す明かりは充分に有るのだが、煌星はこの地下室に入ると嫌な息苦しさや薄暗さを感じてしまう。
煌星は汚れのない石の壁をなぞりながら、何気ない質問をアリアにぶつける。
「ふふ、そうね。本当は私ももう少し明るい部屋に居たいのだけれど、この部屋からじゃなければ、街全体を均等な魔力の防壁で覆うことができないの」
「じゃあここは、本当に街の中心にあるんだな……それに魔力の防壁ってことは、アリアも魔力を物体に変換できるか?」
「そうよ。あなたはとても勘が鋭いのね。──その槍も魔力から創った物よ」
煌星は出発前にアリアから譲ってもらった、白を基調としたシンプルかつ質素な槍に目を落とす。
二回に及ぶ討伐で汚れこそあるものの、かなり乱暴に扱ったにも関わらず目立った損耗はない。
「煌星くん、アリアもってことは、他にもその力を使える人を知ってるの?」
「あぁ、おれたちの世界の守護者も同じ力を使えるんだ」
「おれたちの所……? そう言えば初めて会った時、アリアのこと知らなさそ──」
「マオ、その話は待ってちょうだい。続きはジェノーべファたちが戻ってからよ」
次々と疑問を口にするマオをアリアがたしなめる。
少し不満げな表情のマオは、子供のようにアリアに口答えをしている。
煌星の隣りにいる桜雪はというと、宮殿に戻ったあたりから眉間にシワを寄せて黙りこんでいる。
おしゃべりな桜雪がこうも黙っていると不安になってくる。
煌星は桜雪の顔を覗き込む。
「どこか痛むのか?」
「あ、ううん、怪我はしてないよ」
桜雪は手をぷらぷらと動かし、無傷であることを煌星にアピールしたあと、少しの間口をつぐんだ。
「あのね。なにか大切なこと、忘れてるような気がして……でも思い出せないから、さっきからずっとモヤモヤしてるの」
「大切なものか……なぁ、ユキの忘れてる大切なものってなんだとおも──」
桜雪にかかりきりだった視線を外して、煌星は振り返りながら意見を求めるが、その言葉を言い切る前に、こめかみを太い針で刺すような頭痛に見舞われる。
「いった……なんだ今のは……」
「ホシ、大丈夫!?」
痛みでよろけてしまい、前に重心を崩してしまう煌星を、桜雪が咄嗟に支える。
「どうしたの、煌星くん? 体調悪い?」
急に話を振ってきた煌星が顔に手を当てているのを見て、アリアとマオはきょとんとしている。
「ちょっと頭痛がしただけだ。気にしないでくれ」
「待ってて、おれ上からイスと水持ってくるから」
マオはバタバタと地下室を出て、階段を駆け上がっていった。




