闇夜の会合
「相変わらず陰気臭い場所だ。俺なんかは近づくだけでも息が詰まるっていうのに、この檻のなかで必死に働いてるやつは度し難い馬鹿か信じられないほどのお人よしだな。」
数本のロウソクのほのかな灯りに照らされた薄暗い部屋の片隅で、フードを被った男が呟いた。
「来てくれたんですか、ストラダーレ。」
「緊急事態なんだろう?そうでなければ、灯りにわざわざ蝋燭を使う、旧時代の因習を凝り固めたような頑固爺の巣窟には来ないさ。」
「戒律というやつです。我々は神王の教えを守るべき立場ですから。ルールやマナーは守らなければいけません。そういえば、知ってますか。面接では3回ドアをノックするのがマナーらしいですよ?ノックもなしに影から出てくる人には、お祈り間違いなしでしょうね。」
パナメーラはそう言うと、一人クスクスと笑う。
「神の祝福を受けてない種族が神王教会に堂々と正門から入ろうものなら、よくてこの国を追放、最悪火あぶりだ。俺はお前と違って人生を満喫しているんでね、死にたくはないさ。それにしても、今も飽きもせず受け売りの知識をひけらかしてるのか。相手の知らない言葉を使って、一人悦に入るのはお前の悪い癖だな。何十年も前に事にまだ拘っているのか?」
「それはお互い様です。ストラダーレ。貴方は今日私の呼びかけに応じ、来てくれた。貴方も志は同じはずだ。私にはそれが何より嬉しいんです。」
「義理堅いだけだ。イイ男の条件ってやつだな。」
ストラダーレと呼ばれた男はフードをさらに目深にかぶりなおし、イスに腰かけた。
「素直じゃないですね。知ってますか?貴方みたいな人のことをツンデレって言うらしいですよ。」
「覚えているさ、アイツがよく言ってたからな。」
ストラダーレが答えると、二人の間に重苦しい沈黙が流れる。
「さっきの話、ちなみに私はどちらに分類されるんですか?」
そんな空気を払拭するように、パナメーラは努めて明るい声で問いかける。
「馬鹿なお人よしだな。」
「相変わらず手厳しいですね。」
パナメーラが首をすくめると、ストラダーレは口角を少しだけあげた。
「ところで今日はカイエンとレヴァンテは来てないのか?ベルリネッタとピスタは…まあ呼んだところですぐに来るような奴らじゃないか。」
「ええ、今日は来てもらったのはストラダーレ、貴方だけですよ。」
互いの表情から笑顔が消え、蝋燭の炎は怪しく揺らめいた。
「なにがあった?」
「アバドンが何者かに消されました。」
「………本気で言っているのか?冗談にしては出来が悪いが。」
ストラダーレはテーブルに置かれたグラスを手に取り、香りを楽しむように中を液体を軽く回す。
「私は嘘を言いませんよ。」
「だろうな。お前の手持ちでアバドンに勝るのは、片手で数えられるほどだったか…。」
「ええ、ビジュアルもいかにも悪魔といった感じで気に入っていたんですがね。大損害ですよ。こちらの世界では80レベルを超えるようなモンスターの補充はほぼ不可能ですから。」
パナメーラはわざとらしく肩を落とす。
「その割には余裕だな。喜んでるようにすら見えるぞ………グホッ、なんだこの酒は!焼けるぞ、喉が!!」
「友と祝杯をあげるために教会への献上品を少し頂戴したんです。たしか帝国の西方にあるケンタウロスの国の逸品だと聞きました。飲んだ者の臓腑を焼くということで炎鉄酒と呼ばれているとか。」
ストラダーレがゴホゴホとむせると、パナメーラは思い出したかのように言った。
「しまらんな、お前といると。相変わらずな。」
ため息が蝋燭を揺らし、炎をゆらめきとに導かれるように二つの影が踊る。
「私が抜けている分は貴方が補ってくれます。それが私達の役割なのですから。」
ストラダーレの顔に一層深い影が落ちた。




