本当の冒険
「わかった。ならさ、冒険しようよ。」
重苦しい空気のなかワカナの底抜けに明るい声が響く。
「わかったって言いながら、これほどわかってない天使ちゃんみたの初めてかも。頭の輪っか乾いて思考能力が低下してるのかな?」
サヤがワカナの頭に水をかけようとし、ワカナが逃げ回る。
雰囲気がみるみるやわらぎ、ミカヅキはあきれ顔をする。
「冒険しようってどういう意味なの?」
ナナセがワカナに助け舟を出す。
「そのままの意味だよ。だって私達はこの世界のことまだ全然知らないじゃん。この世界に住んでる人たちが何が好きで何が苦手か。どうやって暮らしてるのか、どんなお祭りがあるのか、なにが美味しいのか、まだまだ知らないことが一杯あるでしょ?知らないのに良いのか悪いのかなんてわかんないかなって。それに私達は冒険者だし!!冒険者は冒険を楽しまないとね。『謎多き使役者の正体を追え!!』なんてクエストすっごい楽しそうじゃん!!ミッドガルドでもそんな感じのクエストやったよね。」
「あったね。邪神の手先を見つけてちゃんと追跡しないとダミーダンジョンに誘導されちゃうやつ。」
ワカナの言葉にナナセが楽しそうに笑う。
「ああ、バカ兄が5回くらい間違えたやつね!!私達があの女が怪しいって何回も言ってるのに『野生の勘』とかいって男キャラばっかり後つけてて…。」
「いや、あれは、その…なんだ。………言い訳のしようもございません。」
あれは逆に怪しすぎてスルーしちゃったんだよな。正直オレも最初から怪しいとは思ってたんだけど、だからこそ他の一見潔白そうなキャラの行動が不自然に見えたというか………決して可愛い女の子のキャラクターだから犯人候補から外したわけではないぞ。
「ミッドガルドでの冒険は楽しかったよね。この世界でも出来るかな。」
「できるさ、オレ達なら。『謎多き使役者の正体を追え!!』か、ミッドガルドなら連続物の長期クエストになりそうなタイトルだな。気合を入れてクリア目指すぞ!!」
「どっかの誰かさんのせいでプラスされた『1年後までに竜を探す』ってクエストも忘れないでよ。こっちは期限まで決められてるんだから。」
「いいじゃない、冒険に困難は付きものでしょ?少しくらい手ごたえがないとクリアのしがいがないわ。この世界のことを知りながら、2つのクエストを同時進行しましょう。それでいいですよね、兄様。」
「ああ、どんな困難であっても、オレ達なら乗り越えられるさ。」
そうだ、ミッドガルドでもオレ達はどんなに厳しい条件のものでも全てのクエストをクリアしてきたんだ。この世界に何が待ち受けていようとも、きっと上手くいくさ。
「とりあえず冒険者ギルドで依頼をこなして信頼を得ないとですね。異国の冒険者というだけではどれだけ強くても信頼を勝ち取るのは難しいですし、信頼がなければ情報は集まりませんから。」
「そうなるともっと大きな都市に出る必要がある。エルベスではナナセは大森林に住む亜人ってことになっちゃってるしね。都市の冒険者ギルドで登録して、6人で依頼をこなすしかない。安定した寝床を確保するためにも当座の資金が必要だし。」
「ゆっくりお風呂も入りたいよね。私は温泉付きでエステも受けられる、料理が美味しいラグジュアリーなホテルがいいな~。」
「一泊いくらかかるのよ!!それにこの世界の文明レベル的にエステあるの!?とにかく私達はまだ冒険者ランクも低いうえに、この世界で使える通貨も持ってない極貧生活なんだから、お金が貯まるまでは贅沢は許さないから!!」
「ひもじいよ~、早くデザートビュッフェ食べたい。」
「あるわけないでしょ!!」
「わからないぞ。都市に出ればミッドガルドを変わらない生活が送れるかもしれない。ひょっとしたらそれ以上かもしれないしな。とにかくこの世界を知るために冒険だな!!」
心がふつふつと湧きたち、体中に力がみなぎる。
新しい世界、未知への冒険!!
ミッドガルドでは出来なかった本当の冒険が今から始まるんだ!!
 




