ミッドガルドへの憧憬
「転移者の可能性も考えないといけない。いずれにしても、あんな危険なモンスターを安易に人に渡すような奴を野放しにするわけにはいかない。サマナーであってもテイマーであっても、使役しているモンスターがロストしたなら感覚でわかるはずだし、呪法をかけた呪術師も記憶を探るために絶対にあのエロ垂れ目に接触を試みる。相手だって私達の情報が欲しいのは間違いないから。相手がエロ垂れ目の城に訪れる瞬間を狙って捕まえるしかない。」
ミカヅキがキツイ口調で忌々し気に言い放つ。
「そうね、完全不可視化状態のナナセが忍び込めば普通の相手なら気づかれることは無いし、気づいた相手がいたとしたら、それが今回の事件の犯人だわ。」
「でも相手だってバカじゃないし、そんなに簡単にはいかないんじゃない?なっちゃん一人で行ったら掴まっちゃうかも。なっちゃんも怖いよね?」
「相手が2人までなら逃げきれると思うけど、同レベル帯3人以上に囲まれると厳しいかな。」
「私もついてくよ。モンスター0匹の私がいてもあんまり役に立てないけど、逃げるのは得意だからナナセお姉ちゃんをフォローできるんじゃないかな。」
「事前にナナセとサヤ自体をゲートとして設定すれば、二人を座標に残りの4人で一挙に転移して敵を取り押さえることもできる。相手も当然転移妨害のスキルは持ってると考えるべきだけど、こっちにも奥の手があるから。」
「一匹一匹ちまちまと捕まえるより、甘い蜜におびき寄せられた虫を一網打尽にする方が効率はいいわね。あとは適当に腕をもいで拷問でもかければ私達が知りたいことを色々と教えてくれるでしょ。楽しいことになりそうね。」
たしかにナナセとサヤであれば二人とも探知能力も高いし、素早く逃走に役立つスキルも多く保有しているから逃げることに専念すれば大抵は問題ないだろう。ミカヅキなら転移妨害を受けてもそれを打ち消すことが出来るだろうし、アツコも含めた状態で相手を取り囲めば負ける可能性は極めて低い。
ただ、それでも…
「ダメだ。大事な妹をみすみす危険な場所に送り込むことはできない。それに…。」
「それに?」
「それに、相手がどんな人間かもわからないのに、敵だと決めつけて捕まえるなんて間違ってる。ミッドガルドは………オレ達の冒険はそんなんじゃなかった。今はまだ相手の目的もわからない。少なくとも相手に明確な敵意があることがわかるまでは、友好的に事を進めたいんだ。」
そうミッドガルドにはプレイヤーキラーはいない。プレイヤー同士がなにかを奪い合って争うシステム自体がなかったんだ。
だから、皆安心して遊ぶことが出来た。
自分だけの冒険を楽しむことができた。
いくらでも攻撃的なプレイができるMMOが揃っているなかミッドガルドを選び、愛をもって100レベル近くまでキャラを育て上げたプレイヤーであれば、きっと争いではなく話し合いで解決できるはずだ。
「本気で言ってるの!?自分の快楽のためだけに動くようなやつに、国すら滅ぼしうるモンスターを与える奴がまともなわけないじゃない!!もしあの場に私達がいなかったら、オークも、トロールも、周辺に住む人間も、何千何万という命が奪われてた可能性がある。それと同じ脅威がいつ現れるかわからないの。バカ兄はそれを見過ごせっていうの!?」
ミカヅキの言葉が心に刺さる。
正論だ。それは分かっている。それでもオレは信じたい。
もしミッドガルドプレイヤーがこの世界に転生したなら、何よりもまず自由に冒険を楽しみたいと思うはずなんだ。オレと同じように、大事な人と一緒に冒険を。




