神を喰らうもの
「いったい何が起こってるんだ!?」
オレは思わず声をあげる。
目の前には虚ろな瞳でなにかブツブツと呟くエロ垂れ目がいる。そしてその後ろからは次々と兵士が姿を見せる。
誰もかれもまともな精神状態ではなく、ミカヅキが精神沈静化の魔法を唱えなければ、出会ったばかりのオレ達を切り殺してでも進もうとしていただろう。
「わかんない。でもこの様子、何かに追われて逃げてきたのは間違いないでしょ。それならその相手は…」
「大森林の邪竜か…。」
オレとミカヅキの会話にルーフェが割って入る。
「おそらく。」
オレは咄嗟に応えた。
危なかった…ルーフェがいることを忘れて思わずミカヅキに『追いかけてるのはアツコだな。』と確認するところだった!!
しかし、どうしてアツコがエロ垂れ目や兵士を追いかけているんだ?
しかも、この様子…どう見てもただ事ではない。
本来であればヒドラがいた場所にアツコが竜の姿で登場する手はずだったんだが、なにかイレギュラーなことが起こっているのかもしれない。
しかし、ここまで来ればやることはひとつ!!アツコを迎え討ち、エロ垂れ目や兵士達を守るだけだ。
大森林の邪竜がいることを裏付ける証言者は多ければ多いほどいい。エロ垂れ目を守るのは非常に不愉快だが、これでも王国の大貴族だというし、その発言には重みがあるのは間違いない。
助ければ改心するかもしれないしな…望み薄だと思うけど。
「いっちゃん、来たみたい。」
ワカナがどこか嬉しそうな声をあげる。次の瞬間、俺の耳にもアツコがあげているだろう雄叫びが届いた。
「ここで竜を倒せば、俺も晴れてドラゴンスレイヤーの仲間入りか!?痺れるシチュエーションだねぇ。」
ルーフェは奥歯をカチカチと鳴らしながらうそぶく。
「英霊達よ、巨悪に立ち向かう勇気を分け給え。『ウォークライ』」
ミカヅキが唱えるとルーフェの震えが止まり、顔に生気が漲った。
「ありがとよ。落ち着いたぜ。」
ミカヅキのナイスアシスト。
証言者となるルーフェが狂騒状態になってアツコに踏み潰されでもしたら話にならない。こういう気遣いが出来る冷静さは見事だ。オレも負けずに活躍しなければ!!
「皆身構えて!!ワカナが動きを止めるからみっちゃんは魔法で援護、るっちゃんは相手が怯んだら脚めがけて一気に切り掛かって。さーちゃんはあの人達がパニックにならないよう指示してあげて。いっちゃんは伝説とまで呼ばれたあの伝説の大魔法の詠唱に入って!!」
なんかワカナが凄い説明口調でオレがトドメを指す係である事を告げる…っていうか今伝説って2回言わなかったか!?
オレがなにか言葉を返そうとした刹那、木々を薙ぎ倒しながら巨大な竜が姿を現した。
アツコの本来の姿『神喰い』だ!!
「先手必勝~!!」
同時にワカナが竜となったアツコの鼻先に戦斧を叩き込む。
ガチンッ!!という鈍い金属音が鼓膜を強かに打つ。
「ストーンバレット!!」
ミカヅキの言葉に応えるかのように無数の石飛礫がアツコ襲う…が当然ノーダメージ、アツコは身じろぎすらしない。
「これならどう~?『巨岩破鎚』!!」
ワカナが戦斧をグワンと一度回すと、勢いを利用して空高くに舞いあがり、凄まじい速度で振り下ろす。
『巨岩破鎚』は打撃系の極位スキルで、相手に大ダメージを与えると共に防御力を下げる効果を持つミッドガルドでもよく使われる大技だ。
戦斧は斬撃と打撃の2つの属性を持っている。ワカナの物理攻撃力、武器、スキルの威力から考えると並の100レベルであればそれなりにダメージを受けるはずだが…。
ワカナの戦斧が的確に脳天をとらえ、ガギリという音が鳴り響く。
しかし、渾身の一撃を受けたアツコは一切怯む様子もなく、面倒くさそうに前脚でワカナを薙ぎ払った。




