神王への誓い
「率直に聞こう。お前たちは人とエルフと獣で構成された女5人、男1人の犯罪者集団に心当たりはあるか。知っているなら素直に吐くことだ。」
「知らないわ。」
大柄なオークは吐き捨てるようにいった。不遜な態度だ。
「ラグ、知らぬはずがあるまい!!お前たちの家に夜ごと人間らが泊っているのは村中のオークであれば誰もが知っている。古くからの教えを破り手前勝手に人と交易を始めただけではなく、このような厄介事までもたらすとは一族の恥さらしが。素直にこの御仁にすべてを話すのだ。そうすればこの村から追い出すだけで許してやろう。」
「…だそうだが、なにか言うことはあるか?お前が知らないというのであれば、そこの犬の身体に聞くことになるが。」
そう告げるとウェアウルフの子どもがオークの背に身を隠す。
「この子は関係ないでしょ!!…知っているわ。でも彼女たちは犯罪者じゃない。」
「我が領内に通行許可証も持たずに侵入した犯罪者だ。本来であればお前もその仲間ということで火あぶりにしてもよいところだが、奴らを引き渡すのであれば寛大な処置を約束しよう。どうする。」
「引き渡すもなにも彼女たちはもういないわ。町に行くって言って出て行ったっきり。異国の旅人で王都を目指してるって言っていたから、もうこの辺りにはいないんじゃないかしら。残念だったわね。」
豚が小賢しい嘘を並べ立てる。
「なるほど、我々も舐められたものだ。おい、お前ら、こいつの家族を全員ここに連れてこい。目の前で一匹ずつ捌いていけば、そのうち自分から喋りだすだろう。」
「私は知ってることは全部話したわ!!それにもし私の家族を傷つけるのであれば、容赦はしないわよ。」
「ラグ、全部話すんだ!!この村を破滅させる気か!!」
豚同士の稚拙な言い争いが始まる。すぐにあの女の仲間のオークの家族が捉えられ、罪人のように縄で縛られた状態で突き出される。
「これで全員です。こやつらは必ずその犯罪者共のことを知っています。数刻いただければ私達が尋問しまして、その結果をお伝えできるでしょう。」
「なるほど魅力的な提案だ。だがお断りしよう。おい、お前達、縄で縛られたオークを除いて一匹残らず殺せ。あの女の仲間以外は不要だ。…いや、ただ殺すのは惜しいな、腹を切り裂いてロウソクを立て、生きたまま燭台代わりに使うことにするか。耐えがたい悪臭は放つだろうが、野営の為の明かりを用意する必要はなくなる。」
「何をする、我々は貴殿に協力すると言っている!!これが協力するものへの礼儀か!!」
「豚の分際で、神王の祝福を受けし我ら人間相手に、交渉しようなどという不遜さを持つ事だけで大罪だ。この村長とかいうとびきり悪臭を放っている豚を一番始めに見せしめにしろ。その後に雄を、次に雌を、そしてガキを、最後に縄で縛られたあの女の仲間共を数匹だけ残して殺せ。貴様らの鳴き声があの女をおびき寄せる楽器になる。王国屈指の大貴族であるインゼル家の役に立てることを誇りに思うんだな。」
その言葉を合図に、傭兵共は意気揚々と豚狩りを始める。
「やめて!!言うわ、彼女たちは大森林の邪竜を探しに森の奥に行っているの、本当よ。ここに戻ってくるかはわからないけど、今日でなくてもそのうち一度は寄ってくれるはず。彼女たちにあなた達の言葉を伝えてあげるから、村の皆に手を出さないで!!」
「フハハハハハッ!!仲間を売ったな、豚らしい利己的な行動だ!!だが、勘違いするな。あの女共に関係なく、元からこの森の亜人は全員殺すつもりだった。豚や犬の容姿で人の言葉を口にすること自体が我々人間に対する侮辱。家畜の分際で人の真似事をした亜人への神王の裁きだと思うんだな!!やれぇ!!殺して殺して殺し尽くせ!!より残酷な殺し方をした者には追加で報酬を払うぞ!!ハハハハハッ、ハーッハッハッハ!!!」
豚があげる悲鳴、豚が焼ける匂い、豚の四肢がもがれ無様に肉塊に変わっていく姿。
スッと胸のつかえが取れるようなこの清々しさ、高揚感、爽快さはどうだ!!!!!!!
神に祝福されし人間と、世界の隅に存在することを許されたに過ぎない亜人。対等な顔で口をきかれたこの屈辱を晴らすためには、この村の豚だけでは到底足りない。
あの女を屈服させたら、次は竜のねぐらの亜人を根こそぎ駆除し、この世界をあるべき姿に戻すのだ!!
豚共の肉が焼け、その炎でうす暗い森が煌々と照らされるなか、私は神王に誓った。




