オリハルコンの輝き
「しかし、こんなに早く一緒に依頼をすることになるなんてな。やっぱり俺とサヤちゃんは運命の赤い糸で結ばれてるぜ。間違いない。」
薄暗い森に明るいルーフェの声が響き渡る。
サヤは『私にも赤い糸が見えます、ずっとこれ何だろうって思ってたんです』などと言いながらハサミでジョキジョキと切る仕草をしているのだが、先頭をいくルーフェには言葉しか聞こえていないようでひたすらに上機嫌だ。
竜のねぐらの調査を終えたオレ達はその足で町に向かい、冒険者ギルドにひとつの依頼を出した。
内容は『先日竜のねぐらの奥でけたたましい轟音が鳴り響き、様子を見に行ったところ大きなクレーターが出来ていたため調べてほしい』というものだ。
依頼主はナナセ。
竜のねぐらに住むウェアキャットであるナナセが、人の言葉を話せることを見込まれて族長の命をうけ、なけなしの金を持って調査依頼に来たという設定だ。
亜人からの依頼は前例が無いわけではないものの珍しいらしく、最初は冒険者ギルドも受けることを渋っていたのだが、ナナセが懇願するなか偶然を装ってその場に立ち会ったオレ達が、興味があるから是非引き受けたいとプッシュしなんとか依頼を成立させることが出来たのだ。
簡単に言うと自作自演。
マッチポンプというやつだ。
なんか詐欺を働いたようで心苦しいが、竜のねぐらの平和を守るためにはこれしか方法がないのも事実だ…多分。
諦めてこの依頼を成功させることだけに集中しよう。
なお、ナナセは依頼人ということもあり今回の件であまり表に出ることが望ましくないため、不可視化のスキルを使いルーフェには見えない状態でこっそり一行に加わってもらっている。ナナセの探知能力なしでは色々と不都合なため、こういった形でついてきてもらっているが申し訳ない事をしてしまった。
申し訳ない繋がりでいうと、今回の件のせいでナナセはエルベスでは冒険者登録が難しくなってしまったな…ウェアキャットの耳自体はマジックアイテムで簡単に隠すことが出来るが、顔つきまでは変えられない。早いうちに他の都市で冒険者登録をしなければ。
ちなみにワカナはというと、冒険者登録を無事済ませることが出来た。
冒険者になるためには最低でも16歳でないといけないため、途中年齢について逆サバを読んでいないか疑われたが、たまたま…というか恐らく依頼以外ではほとんどギルドで飲んだくれているだろうルーフェの口添えで、何とかねじ込んでもらう事が出来たのだ。
この当たりは腐ってもオリハルコン級冒険者の信用といったところだな。
「ところで今日はアツコ嬢はどうしたんだ?」
想定通りの質問。
「アツコは…。」
「女の子の日だよ。そ~いうデリカシーにかける質問はNGなんだからね~。可愛い可愛いワカナは許しちゃうけど、今度から気をつけて。」
ワカナがオレの会話を強奪し、なぜかちょっと自慢げに指をフリフリとルーフェに向かって揺らす。
「なるほど…それはなんというか…申し訳ない。」
微妙な空気が漂う。
アツコがいない理由付けのための嘘とはいえ、かなり気まずい。だからオレが婉曲に伝えようとしたのに…仕方ないここは話題を変えるか。
「ルーフェさん、オリハルコン級への昇級おめでとうございます。」
「おお、ありがとよ。自分の力で勝ち取ったわけじゃないから少し複雑な気分だが、周りからオリハルコン級って崇め奉られるのは悪い気持ちはしないな。」
ルーフェはそう言ってオリハルコン製の識別票を掲げる。
「こういう審査ってもっと時間がかかるんだと思ってました。識別票がくるの早かったですね。」
「そうだな、普通は審査に一ヶ月、長い時は一年近くかかるらしいんだが、受付嬢いわく昇級審査の場にあの『竜鱗の騎士』が立ち会ったとかですぐ決まったらしい。噂によると東の山脈から周辺都市を襲いにきたサイクロプスの軍勢を一人で押し退けたとか聞くぜ。恐らく王都は英雄の凱旋を讃える式典の準備やら大忙しで、俺の昇級に時間を費やす暇なんてないんだろうな。まったく竜鱗級ってやつは嫌になるね。」
「竜鱗の騎士…その方はそんなに強いんですか?」
「なんだ、知らないのか!?竜鱗の騎士ハイリッヒといえば、伝説どころか神話の域に足を踏み入れつつある大英雄だぜ。周辺諸国もハイリッヒの名を聞くだけで震え上がるっていう超大物だ。他でそんなこと言ったら間違いなく世情に疎いカモだと思われるぜ。ちなみに、いくらあんた達だって流石に竜鱗の騎士には勝てないだろうな。」
ルーフェがどこか自慢げに語る。あまり愛国心が豊かには見えないルーフェがこれだけ熱弁するという事は、ケルキヤ王国が誇る大英雄なのだろう。
竜鱗の騎士ハイリッヒか。いつか会ってみたいな。




