邪竜の証明
トリコロールヒドラがいたであろう場所に降り立ったオレは、一面に広がる光景に圧倒された。ワカナが放ったグランドクロスにより木々を同心円状になぎ倒され、地面は隕石でも落ちた跡であるかのように深々とえぐれている。
ワカナが放った極位魔法でこの威力だ。
もし本職の魔法詠唱者であるオレがミッドカルドにおける最高位魔法『始祖の魔法』を使ったとしたら………そう考えるだけでも空恐ろしさを感じる。
ミッドガルドでは魔法によりダメージを受ける相手は敵に限られていたが、この世界では仲間を含め周囲に存在するあらゆるものに対し等しく効果を及ぼす。
そう思うと、威力が強いからといって安易に大魔法を使う訳にはいかないな。
「ここまでメチャクチャになってると、ここに何がいたかなんてわからないわね。サヤ、なにか分かる?」
「うーん、中心部分の地表は長年トリコロールヒドラがいたから硬質化してて、魔法で抉れていない部分があるみたい。『アナライズ・オブジェクト』」
サヤは魔法で解析を始める。たしかサヤは錬金術師のクラスも持っていたな…こういった分析はお手のものというわけか。
「詳しくまではわからないけど、元は土だった堆積物が長時間圧力がかかって鉱石になっているみたい。トリコロールヒドラは体表から粘液だすけど、その影響もあるのかも。とにかくここに居たのが10年や20年って感じじゃないことは間違いないよ。」
「周囲の木の樹齢からみても100年前からここに居たみたい。傷ついた身体を癒すためか、それとも誰かに封印でもされていたのか…100年間ずっとここでとぐろを巻いてたってこと。」
「そんな存在が何匹もいるとも思えないか。やっぱりワカナが倒したのは伝説の大森林の邪竜だな…………………どうしよう!!」
トロール達が竜のねぐらのパワーバランスを保つために、他の亜人を殺してでも近づけなかった大森林の邪竜。
それを知らなかったとはいえ部外者であるオレ達が勝手に退治してしまったのだ…悪気はなかろうが何らかの形で責任を取る必要がある。
でも、いったいどうやって…。
「大丈夫です兄様。竜がいることにしてしまえばいいんです。」
「竜がいることに?」
竜がいる?どういうことだ、幻術でも使うのか?
「あまり気が進まないけど、それしかない。」
「うーん、一時しのぎな感じだけどね。」
アツコの言葉にミカヅキとサヤが反応する。
「役割も決めないとだね。証人になってもらう人も探さないといけないかも。」
ナナセもアツコの案に賛同する。
あれ?ひょっとして話についてけてないのオレとワカナだけ?
「ふふ、結局は最後はワカナが頼りなわけね。」
ワカナが長い黒髪をかきあげる。
ワカナまで分かってるの?本当に理解してないのオレだけ!?
「ワカナちゃん、適当なこと言っちゃダメだよ。兄さん困ってるから。」
あ、良かった、ワカナもわかってないんだ。
「兄様、私に任せてください。きっと兄様に喜んで頂ける結果になると思います。」
眩しいまでのアツコの笑顔。オレはそんなアツコにただ曖昧な笑みを返すことしか出来なかった。




