村を探して
「バカ兄、次セクハラしたら今度は死後の世界に転移させるわよ。」
「反省してます…。」
ミカヅキの言葉にアツコは私はいつでもウェルカムですと言い、他の3人はそのやり取りをみて笑っている。
オレ達は最初いた場所から移動し、森の小道を歩いていた。
しっかりと整備されているというわけではないが、木々は切り開かれ歩くのに不自由することはないという点で獣道ではない。
恐らく近くの住民が日常的に使っている道で、ここを辿れば小さな村落位には着くだろうというのがアツコの見立てだ。
「のどかな良い所ですね。木漏れ日が気持ちいいです。あとは競馬場や闘技場、賭場があればジーガジーズ参号様に私の信仰心を捧げられるので、言うことないんですが。」
ナナセが穏やかな声でサラッととんでもない事を言い出す。
しかし、ナナセのギャンブル中毒を知っている妹達は『そうだね~。あっ蝶々とんでる!!』などと言い軽く流している。
ミッドガルドで何回も繰り返し見た光景。
懐かしいような、新鮮なような、不思議な気持ちだ。
「村に着いたら色々と聞かなきゃいけないことがあるから、皆大人しくしてなさいよ。特にワカナ。変なことして怪しまれないようしなさい。」
「らじゃ〜。村に着いたらホテルでビュッフェ食べながら大人しくしてる〜。」
「ホテルなんてあるわけないでしょ!!」
すかさずツッコむミカヅキ。
「大丈夫、ワカナには天使小屋あてがってあげるから好きなだけ牧草食べてていいからね。今ならサービスでニンジンもつけちゃう。」
すかさずワカナにちょっかいをかけるサヤ。
ワカナは『ニンジンやだ~』などとずれた回答をし、そのやりとりをみてミカヅキがため息をつく。
『キャバクラAI』などと揶揄されるように、ミッドガルドではNPCの性格を設定することでAIによる自動雑談機能が起動し、トークAIを切らない限りこう言ったフリートークが繰り広げられる。
会話の内容は本当に様々で、アツコやナナセであればしょっちゅうオレに話しかけてくれるし、ミカヅキのような真面目な性格であれば冒険の目的や進捗をまとめてくれるし、サヤやワカナのような性格であれば勝手にふざけあったりする。
なのでこういった妹達のふざけ合いは何度も見ているし、時にはオレも会話に混ざっていたけれど、現実世界では知り合うどころか画面越しでも滅多にお目にかかることが出来ないレベルの美少女5人とこうやって直に対面すると、緊張して雑談に混じるどころではない。
そもそも38歳にして彼女いない歴=年齢のオレにとって、仕事抜きで女性とフリートークをすること自体が、かなりタフなミッションといえる。
大手イタリア料理チェーン店で長年店長を務めているうちに、『仕事上の職場トーク』というカテゴリーの中ならば何とか女子高生とも表面上は円滑に話すことが出来る様になったのだが、とうとうフリートークスキルは身に付かなかったのだ…。
こういう時、お決まりの異世界転生物ならそういうレアスキルも一緒に貰えるものじゃないのかと愚痴をこぼしたくなるが、今は自分が精魂込めて作り上げた妹NPC達と一緒にいられるだけで幸せすぎるので、思わずニヤけてしまうのを抑えるだけで精一杯だ。




