妹の責務
広場に戻るとそこには地獄のような光景が広がっていた。
はにかむアツコ、エロ親父のような気の抜けた笑みを浮かべるバカ兄、何をやってるのかとチラチラ二人をみる通行人。
町で一番目立つところで何やってんの、あの二人!!
バカ兄の手には桜色のカチューシャが握られている。
まさかプレゼントするの?アツコに!?それを!!??
誰がどう考えても似合わないでしょ、絶対!!
キリッとした美人のアツコに10歳くらいの女の子が着けそてそうなピンクが大爆発しているフリルとレースだらけのバカでかカチューシャ。
バカ兄どんなセンスしてんの!!??
しかも、バカップルみたいに往来のど真ん中、この町の中心でバカ兄がアツコにカチューシャをつけている。
身内にとっては地獄の光景だ。
なんかすっごい見られてるのに一切気づいてないし。
バカなの?二人とも脳内ピンクなの??
え、なに?
私は今からあそこに合流するわけ??
絶対身内だと思われたくないんだけど!!!!!!!!!
しかし、二人の妹として…というか実質的な保護者として、身内の恥を衆目に晒しつづけるわけにはいかない………。
恐らくサヤはこの状況をどこかで笑いながら見ているだろう。先に見つけて割って入るよう命令したいけど、探知スキルに差がありすぎてサヤとのかくれんぼに勝てる可能性は限りなくゼロに近い。
…仕方ない、この危機を救えるのは私しかいない!!
「往来のど真ん中で何やってるの!!恥ずかしいから奥行く、奥!!」
とりあえず二人を広場から連れ出し、裏路地に引っ張り込む。
バカ兄がサヤが私達を見つけられなくなると困るなどと寝ぼけた事を言っているが、サヤがこんな面白い出し物を放っておくはずがない。
どうせ完全不可視化の魔法でも使って、近くでニヤニヤしながら眺めているに決まってる。
「ミカヅキ、お疲れ様。」
いきなりアツコが話しかけてくる。
満面の笑み。
よっぽどバカ兄にプレゼントを貰ったのが嬉しいらしい………っていうかアツコはそれでいいの!?それで!!
バカ兄が宿がどうのこうのと言っている間にも、アツコは懸命に私の視界にカットインを試みる。
チラチラチラチラと脳内ピンク女が視界に入る。
ウザい、限りなくウザい。
おそらく可愛いとか似合ってると言われたいんだろうけど、その得意顔が果てしなくウザい。
「ミカヅキ、楽しみね。」
いきなり真正面に回り込み一言。
視界にバカでかピンクカチューシャをつけたアツコの顔面ドアップが割り込んでくる。
笑いそうになるのを必死に堪え横を向く。
「ミカヅキ、何買ったの?この町結構仕立て屋も多いみたいよ。」
頭をフリフリとアピールしながら、見て見てアピールを繰り返すアツコ。
いいの?本当にそれ似合ってるって思ってる??
いつもは明晰な頭脳を誇るアツコのIQが、バカ兄絡みになると間違いなく50位さがる。
というか、こんな馬鹿面さげて頭をメトロノームのように振りながら買って貰ったアピールをしてくる姉は私にはいない。
私の知ってるアツコはもういない。
死んだのよ、ミカヅキ、あなたの知っている姉は!!
ここには浮かれて頭がおかしくなったピンクカチューシャ女が一人。バカ兄が今度埋め合わせをするやら何やら言っているが、会話の内容が一切頭に入ってこない。
「気づいてなかったの?」
アツコがついに頭のカチューシャを触りダイレクトアタックを試みる。もうダメだ、これ以上逃げられない!!
私は気づかなかったとだけ言い、早くサヤが来ることを天に祈る。
「どう?似合ってる?」
………ああ、あれね。答えなきゃダメなタイプの選択肢なわけね。
これだけ浮かれているアツコに対して、正直に『超似合ってないから今すぐ外せ!!』とは言えない。かといって調子に乗らせるとこのカチューシャをずっとつけかねない!!
「…アツコは顔だけは美人だから、何つけてても変だとまでは思わないけど。」
届け私の想い!!
「そう?やっぱり似合ってる?兄様が私のためだけに選んでくれたの。」
ダメ、脳みそプリン状態のアツコに婉曲な表現は通じない!!
なにか角度を変えた言い方で外させないと私達の二つ名が『ピンクカチューシャ』になりかねない。ここは起死回生の言葉を…そうだ!!
「悪くはない。ただ大事にしたいなら普段は外して置いた方がいいんじゃない。私達が身につけてる物みたいに魔法がかかってるわけでもないし、なにかあったらすぐ汚れるから。」
そう、大事なものなら閉まって、記憶の奥底に。出来るならハロウィンの日限定で思い出すとかそういう方向で。
バカ兄がまた何か言ってるがそれはいい。アツコどうなの!?
「たまたま私に似合うのがあったんだって。ミカヅキに似合うのも見つかるといいわね。」
何もわかってない!!
なんなの?バカなの?
え、しかも、私も買って欲しいみたいな流れになってる!?
ホワイ、どうして??
「ミカヅキちゃん、困ってる?仕方ないから私が助けてあげるね。」
不意に耳元でサヤの声。振り返るけれどそこには誰もいない。やっぱり近くで隠れてたか!!
「いいわよ、別に。サヤ戻ってきたから早く行きましょう。」
私が言い終わるのと同じタイミングで、サヤがひょっこり顔を出す。こうして私達はバカでかピンクカチューシャをつけたままの姉と冒険を続けることになったのだ…。




