事案
少女はいきなりオレに向かい頭を下げながら叫んだ。
え、オレなんかした!?
目の前には恐怖に怯える少女。店には完全武装した冒険者…これ見ようによっては思いっきり事案だ!!
もしこの現場を見られると非常にマズいことになる気がする…とりあえずこの場を収めないと。
「い…いや、勘違いさせたなら申し訳ない。買い物をしに来たんだ。なにか。そう、あの、そうだな、妹の…妹へのサプライズなんだ。プレゼント…そうサプライズプレゼント!!」
オレがしどろもどろになりながら言うと、少女はビクッと身体を震わせる。
声が大きすぎたか!?
「…驚かせてしまってすまない。買い物に来ただけなんだ。信じて欲しい。」
「お客様…ですか?」
「ああ、妹になにか買ってあげたくて、外から覗いてみたら可愛い物が売っていたからドアを開けてしまったんだ。ひょっとしたらここは仕立て屋なのかな。迷惑なら帰るから安心してくれ。」
「い、いえ迷惑だなんて。こちらこそお客様をならず者扱いしてすいません。私の店は仕立もやっていますが店に並んでいる物も買えるんです。店の奥に置いてあるものもあるので、どういった物が欲しいか伝えて頂ければすぐに出しますよ。」
少女の表情が一転して花が咲くような笑顔に変わった。
私の店ということは彼女が店主なのか。見た目的にはサヤやミカヅキと同じくらい、現代社会でいえば高校生くらいにしか見えないが、容姿が幼いだけで成人しているのかもしれない。
「なにが良いかというのはあまり深く考えないで来てしまったんだが…。」
「それならどんな妹さんか教えてもらえれば私のほうで見繕いますよ。雰囲気とか、好きなものとか。なんでもいいんです。」
うーん、妹が5人いるんですと言って一気に特徴を伝えても頭に入らないだろうな。
さっきアツコに悪いことをしたし、アツコの物から選ぼう。
「容姿としては派手な美人で目鼻立ちがくっきりとしてるな。体のラインがわかるピタッとしたファッションが好きで、スタイリッシュというか美人カッコいいみたいなタイプだと思う。ただ…」
オレはアツコのフレーバーテキストを必死に思い返す。
なんせ7年近く前にキャラ設定したので、記憶が曖昧になっている部分も多いが、モデルが中学時代の教育実習の先生なので、恐らくアツコ先生が好きだったものをそのまま入力しているはずだ。
「本人は可愛いもの好きだな。キャラ物のぬいぐるみとかファンシーな小物とか。」
「キャラ物…すいません、知識がなくてわからないんですが、可愛いものがお好きなんですね。」
しまった、ついつい現代の感覚でしゃべってしまった。
妹達はNPC時代の会話を覚えているようで、オレが使っていた言葉の意味はなんとなく理解しているようだが、この世界の人には当然通じないわけか。
一応しばらくは兄妹で旅をしている異国の冒険者という設定でいこうと思っているから、少々のボロは見逃されると思うが、今のような会話を転生者の前でしたら一発でバレるだろうし、下手な事を言わないように気を付けないとな…まあわざと転生者でないと分からない会話をして同士を見つけたいという気持ちもないわけではないが。




