竜の封印
「意見は出揃ったな。では状況を整理して今度の方針を立てよう。」
オレは就職活動を思い返し、グループディスカッションの司会を務めるイメージで話をまとめるために声をあげる。こういうのは最後に意見をまとめた人間が賢くみえるものだ。
ここは妹達に是非とも大人の貫禄をみせたい。
「第一に人間が大森林の邪竜の恐ろしさを忘れ、竜のねぐら深くまで踏み入るようになったことで、竜が目覚めようとしている。第二に竜が目覚めれば亜人だけでなく人間にも大きな被害がでる。第三に竜を倒すと国家間の戦争を誘発し、被害がさらに大きくなる可能性がある。こんなところでいいか。」
みんなが『そんなの分かってるよ』的な目で俺を見る。
いや分かってることを共有するのが大事なんだからね?決して自分の理解があってるか試したかったり、まとめることでリーダーっぽくなりたいわけじゃないからね?
「そこで今後の方針だが、オレとしては竜を再び眠らせる…封印するのがいいと考えている。」
「封印?あんたらそんなことまで出来るのか?」
ルーフェが驚きの声をあげる。
「水晶のような物体に閉じ込めてしまうと目に見える形での脅威がなくなってしまうので、あくまで動きを封じる程度での封印術です。」
オレはドヤ顔で答える。
この方法であれば先ほどの問題のうち二つはクリアでき、当面の危機は回避できる。
その間に『竜のねぐらに人が侵入してくる問題』の解決に集中すれば、きっと良いアイデアが浮かぶだろう。
「バカ兄にしては妥当な判断ね。で、どうやって封印するの?」
やったぞ、あの辛口なミカヅキに褒められた!!
これで兄としての威厳も保たれるし、森の安全も担保される。あとはどうやって封印するかだが…………ん??
「話は変わるが、ミカヅキは封印魔法を使うことが出来るか?」
「話が変わってる感じはしないけど、短期的に眠らせる魔法『スリープ』、一時的に麻痺させる『パラライズ』、相手を結晶化して封印する『インプリズメント』なら使える。ただバカ兄の言うそのままずっと眠らせるみたいな魔法は持ってない。…案として出すからには封印のためのマジックアイテムがあるんじゃないの?まさか、私が出来そうだからって適当なこと言ったんじゃないでしょうね。」
「…あ、はい、まさにお見込みの通りです。」
「はぁ、そんなことだろうと思った。」
ミカヅキからため息が漏れる…いいアイデアだと思ったんだけどなぁ。
「まあそんな都合のいい解決方法はないってわけだな。それに将来のことを考えるのもいいが、いまどうするかも問題だぜ。俺らはトロール討伐の依頼を受けてるんだ。まさかギルドにいま見聞きした話をそのままするわけにもいかないだろ。」
そうか、その問題もあったか…いまさら無抵抗のトロール達を殺すわけにもいかないが、ギルドから依頼を受けている以上なにも結果を残さず依頼失敗として戻れば、オレ達が失敗した依頼を達成しようと他の冒険者が森に侵入することになる。
なんらかの成果を残しつつ、存在が過去の物となりつつある大森林の邪竜に対する恐怖も煽るような方法はないだろうか…。




