ドラゴンスレイヤー
「殺せば森に軍隊が来る。戦うのであれば負けるつもりはないが、森を焼かれれば終わりだ。竜は怒り、通り道にいる我々は滅ぼされる。」
「逃げないのか?」
「この地は100年前に先祖が命を賭して戦った我らの祖霊が祀られる場所だ。下らぬ見栄だと笑われようが、戦士である我らが大森林の邪竜から逃げるわけにはいかない。」
アルバは自分自身に言い聞かせるように言う。
「100年前にも生き残ったトロールがいたんでしょ?それでなければ貴方達の存在する説明がつかない。」
たしかにミカヅキが言う通り、竜のねぐらに住む全ての亜人が死んだわけではないはずだ。
「大森林の邪竜は残虐で気まぐれだがバカではない。すべて殺せば気が向いた時に遊ぶ玩具がなくなることくらいは分かっている。奴は非常食として、あるいは悲鳴を楽しむための生きた楽器として、僅かな幼子を残し、そしてそのまま眠りについた。」
「ひょっとしてその幼子ってのは…。」
「私もその一人だ。」
ミッドガルドの設定ではトロールの寿命は200歳近い。
アルバが歴史の生き証人だという話は嘘ではないだろう。
「100年の月日が経ち、一時は10にまでに減った我々の部族は今では100を超える。だが大森林の邪竜には勝てない。それも分かっている。もし竜がめざめ戦わなければならなくなったのなら、100年前の先祖が誇りを示したように我らも戦い、死ぬ。しかし、それらは我ら戦士の身勝手な考えにすぎない。子ども達は生かしたい。だから人をこれ以上森に入れるわけにはいかない。」
トロール達の悲壮な覚悟。
先ほどまであれほど大きく見えたトロール達が、今では雨に濡れた子犬のようだ。
「…竜を倒せばいいのか?」
オレは無意識のうちに問いかけていた。
「おい大将、本気か?あんたらが強いのはよく分かった。だけど相手は竜だぜ。それもエルダー…いや下手すればエンシェントドラゴンだ。エンシェントドラゴンといえば竜燐級の冒険者が束になっても勝ち目は薄いって言われる、化け物のなかの化け物だ。悪いことは言わない、考え直したほうがいいぜ。」
ルーフェの言うことも最もだ。
ミッドガルドの基準で考えるとエルダードラゴンであれば少なく見積もっても60レベル、エンシェントドラゴンであれば80レベル、竜族の頂点に立つドラゴンロードであればイベントのラスボスとして100レベルを優に超える力を持つ者もいる。
大森林の邪竜がドラゴンロードである可能性は低いと思うが、自らの安全だけを考えれば関わらないのが無難だろう。
しかし、冒険者として、一人の人間として、多くの命を遊びのため奪うような存在を許していいのか。
何より『ドラゴンスレイヤー』という称号をみすみす逃していいのか!!
もし竜を倒せば解決であるというのであれば、オレ達の出番だろう。




