石の雨
どうしよう、数が多すぎる。いくらクローネが強くても、負けちゃう。
私が思わず後ずさりすると、クローネは迷うことなく走り寄って、返り血がベッタリついた鉈を頭めがけて振り下ろした。
反射的に目を閉じ、次の瞬間ダメだと思って瞼を開けると、女の人に跨っていたゴブリンの頭から噴水みたいに血が噴き出して、糸が切れた人形のように倒れる光景が瞳に映った。
「キャッ………」
悲鳴が出そうになるのをこらえる。クローネは自分を捕まえようとしてるかもしれない人のために戦ってるんだ、私が怖がっててどうするの。
「おーい、こっちにもいるんだから!!」
私はゴブリン達の注意を引くため、転がっている石を握って思い切り投げる。
ひとつ、ふたつ、みっつ、力の限り投げ、そのうちのひとつが私とクローネに交互に視線を送りながらパニックなっているゴブリンの顔に命中した。
「グァァァァアアアッ!!」
駄目だ、私じゃどれだけ力を込めて投げても、気絶させることひとつ出来ない。でも、10匹近くゴブリンのうち数匹の注意をこっちに向けさせることは出来た。私は途中で拾った木の棒を構える。
「私が相手してあげるから!!クローネ、こっちは任せて、女の人を助けてあげて!!」
「わかった、危なくなったら逃げて!!」
クローネはすばしっこく走り回りながら、女の人に群がっているゴブリンを少しずつ引きはがしていく。女の人が隙をついて逃げてくれれば、私達も逃げられる。
注意をひいた3匹のゴブリンがギロッと私を睨み、こん棒を引きずりながら近づいてくる。怖い、でも怖くない。私は一人じゃない、クローネと一緒に戦っているんだ。
「怖くないんだからっ!!」
木の棒を天高く振りあげる。これを思い切り振り下ろせば、1匹くらい倒せるはずだ。私を警戒するようにゴブリンがじりじりとすり足で距離を詰めてくる。
「いたっ、罠にかかったぞ!!」
突然野太い男の人の声が響くと、森の奥から松明の光が差し込む。よかった、女の人を助けに来たんだ。
「クローネ、村の人達だ、助けに来たんだよ!!もう任せちゃって、早く逃げよ………」
ドスッ。
足元に何かが転がってくる。
石だ。
どうして、私は投げてないのに。
ドスッ、ドスッ、ドスッ。
たくさんの石が空から降ってくる。ううん、違う、石は松明の灯りの方向から飛んできてる。村の人達が投げてるんだ。
「グガッッッアアアアッ!!」
ゴブリン達が石の雨を体にうけて、一斉に悲鳴をあげる。
ゴッ!!という一際大きな音が響いて、体を起こしていた女の人が魂が抜けたみたいにバタリと倒れる。
「止めてっ!!掴まってる人がまだ逃げてないの、危ないっ、石を投げないで!!」
私は力の限り叫ぶ、それでも石の雨は止むことなく、地面に横たわる女の人に容赦なく降り注いでいく。
「ダメ!!聞こえないの!?止めて!!」
動かなくなった女の人のうえに何かが覆いかぶさる。
松明の微かな光に照らされた赤い髪が、炎のように揺らめく。
「クローネ!!ダメ、逃げて!!」
松明の光に背を向けるクローネに石が投げられる。一つ石が当たる度にクローネの体はビクンと跳ね、それでも決して地面に倒れた女の人から離れようとはしない。
「止めて、ゴブリンはもう大丈夫、全員気絶したから!!石を投げるのを止めて!!」
私は石の雨のなかクローネに向かい走った。




