獣たちの宴
「一緒だね、私達。汚いし、ボロボロ。私もクローネも同じだ」
「うんっ」
クローネに伝えなきゃいけないことがもう一つある。ずっと隠してた、もう口にしないと決めていた言葉。
「リーゼロッテ」
「えっ?」
「私の本当の名前。ケルキヤ王国第一王女リーゼロッテ。病気で死んじゃったお母様がつけてくれた名前なの」
「………リーゼロッテ?」
「ごめん、たくさん嘘ついてた」
「ううん、いいの、大事な秘密だったんでしょ?教えてくれて嬉しいの。リーゼロッテ、とっても素敵な名前。ローゼよりずっと似合ってる」
クローネが笑ってくれた。
この名前を誰にも言っちゃいけないとか、身分を隠さなきゃいけないとか、そんな事どうだっていい。私にはクローネの笑顔が何より嬉しかった。
「そうだ、このまま此処にいるとこいつ等の仲間が来ちゃう。近くにいると臭いでバレちゃうし、なるべく遠くに逃げないと」
クローネはそう言うと、私の手を引きお屋敷にほうに向かって駆けだそうとする。
「そっちはダメ。私の屋敷に人間に、ううん、村の人達にもクローネが人狼だってバレちゃったの。みんな人狼狩りがどうとか言って、森を探すつもりなんだって。ごめんなさい、私のせいで………」
「ありがとう、それを伝えるために裸足でここまで走ってきてくれたんだね。わかった、一緒に森の奥に逃げよう。背中に乗って」
「えっ、でも………」
「大丈夫、アタシは力が強くて足が早くて凄いんだってリーゼに自慢したいだけだから。ほらっ、掴まって」
「うん!!」
クローネの小さな背中に乗ると、心細さが吹き飛んで、どこまでも駆けて行けそうな、そんな気持ちになる。
「キャーッ!!助けて、誰かっ、お願いっ!!」
クローネが走りだした瞬間、遠くから微かに叫び声のようなものが聞こえた。
「いまのって」
「悲鳴…だと思う。女の人の。助けに行こう」
「でも、きっと村の人だよ、クローネを探しに来た人達からはぐれたんだと思う。見つかったらクローネが掴まっちゃう。悲鳴を聞きつけた他の人達が助けに行くはずだから、私達は先に逃げよう。いつ見つかってもおかしくないよ」
クローネは背中にのった私をゆっくりと地面に降ろす。
「安心して。様子だけ見にいって、女の人が大丈夫そうなら他の人にバレる前に逃げるから。リーゼはここで待ってて、すぐに戻ってくる」
「嫌、私も走って一緒に行く。もし村の人達に掴まっても、クローネが良い子だって、私を助けてくれたんだって言えば、きっと信じてくれる。私は悪い人狼なんて知らないって、私が知ってるのは優しくてカッコいいクローネっていう友達だって、何度でも説明するから」
「わかった。行こう」
クローネが真っ暗な森のなかを駆けだす。早くて、見失いそうになるけど、懸命に追いかける。1分ほど経つと次第に悲鳴が近くなっていく。
少し開けた場所に出ると、大人の女性が沢山のゴブリンにのしかかられて、何かをされていた。服はビリビリに破られて、身体中に引っかき傷がある。ゴブリンは悲鳴を楽しんでいるみたいに、頭を叩いてはゲラゲラ笑ったり、わざと胸に爪を突き立てていた。




