似た者同士
「いや、あのっ………すいません、変なこと言って」
「別に何もおかしな事は言っていません。ただ、ひとつ言うのであれば、人狼に対して人間が安直に謝罪するのはおかしな事です。貴方は王宮に仕えているわけではないのですから、アタシに対してへりくだる理由も、畏怖する必要もありません」
クローネが早口でまくしたて、嫌な沈黙が周囲に満ちる。
「すいません」
「それです」
「あっ、すいません、これはその、日本人の口癖みたいなものなので気にしないください」
「ニホン?貴方の生まれ故郷の名ですか?そういった国名は寡聞にして存じ上げませんが………遠くからいらっしゃったのですね」
「………はい、そんなところです」
不味い、不味いぞ、勢いで思いっきり日本と言ってしまった!!いや、クローネさんが転生者でないことは明らかだし、あまり口が軽いようにも見えないから問題ないはずだ。
それよりも………
「オレの国には人狼はいないんです。なので、人狼に対する差別もありません。だから、その………クローネさんの悩みや苦しみが理解できず、申し訳ないです」
足音がやみ、クローネがこちらに背を向けたまま立ち止まる。
「本当に変な人ですね、知らないのであれば尚更貴方には謝罪する必要がありません」
「そうですね、そうかもしれません………でも、当事者が辛い思いをしているのに、知らないということを免罪符に傷つけてしまっているのだとしたら、謝りたいんです」
クローネさんがオレの言葉を無視するように再び歩き出し、それに合わせるように歩を進める。
永遠にも思える沈黙。
くそっ、こんな事になるなら、もっとギャルゲーやって会話のセンスを上げておくべきだった!!三択、せめて三択から選ぶ形式ならもう少しまともに会話できるのに!!
「4日間」
「はい?」
「4日もの間、貴方はアタシの目を見ることもせず、積極的に話しかけてくることもしませんでした」
クローネがぷくっと頬を膨らませる。
やっぱり怒ってるのか!?
「あっ、はい、なんというか………緊張してて」
「妹さんの前ではもっと堂々としてらしたかと思いますが」
「それは兄としてしっかりしないければと思い、少し無理をしているというか………倍くらい年が離れてるのに、頼りにならずにすいません」
再び訪れる沈黙。
胃が痛い………。
「アタシは嫌われているのだと思っていました」
「えっ?」
「人狼だから貴方がアタシと共に旅をしていることが不快なのだと。ひとり勝手にそう結論づけ、貴方を侮蔑していました。謝るべきはアタシです。命の恩人に対し、勝手に恨み、憎悪し、裏切られたと勘違いし。申し訳ありませんでした」
クローネはくるりと踵を返し、深々と頭を下げた。
「ははっ、オレも勝手にクローネさんはオッサンとの二人旅が嫌で喋りたくないんだと思ってました。似た者同士ということでオレも許してください」
オレがそう言うとクローネは口に手をあて笑い、つられてオレも笑う。
「教えてくれませんか、人狼のことを」
「はい」
オレ達は再び横に並んで歩き出した。




