ギルドの失態
「魔法ってやつは便利だねえ、よしそれで行こう。」
オレが探知について一人脳内会議をしていたところ、ルーフェの声が聞こえ、ふと我に帰る。
そうだ、村で聞き込みをしたあと、ミカヅキの『サーチエネミー』を使ってトロールを追おうという話をしてたんだったな。
方針が決まったため、日が落ちないうちに直近で被害にあった村に向かうことになった。
「こりゃまた派手にやられたな。」
襲われた村に着くとルーフェが誰に話しかけるわけでもなく呟く。
依頼を受けた村とさして変わらない規模ではあるが、より竜のねぐらに近いということで防護用の柵も大人の背丈を超えるほどあり、森に向かって櫓も組まれている。いや、組まれていたというべきだろう。
先日のトロールの襲撃で破壊されたのだろう。丸太で組まれた柵は数十メートルにわたり破壊され、櫓は一つを残して土台から崩されている。
家屋も半分ほど倒壊しており、超大型のハリケーンが通り過ぎた後のような状況になっている、といえば分かりやすいだろうか。
「あんたたちが隣の村が雇ったっていう冒険者かい。」
「そうだ、仇を取りに来たぜ。」
「頼んだよ、アイツら人の村をムチャクチャにしていきやがった!!柵や家を壊すだけならまだしも、大事な家畜まで奪ってきやがったんだ。このままじゃ飢え死にだよ。」
村人は怒りに任せ早口でまくし立てる。
壊された家屋の建て直し、獣やモンスターから村を守るための防護柵の修理、奪われた家畜に変わる耕作手段の確保。
オレが村人であったなら頭を抱え茫然自失となる惨状だ。
「攫われたのは何人?性別や年齢、特徴を教えて。」
ミカヅキが村人に問いかける。
そうだ、攫われた人もいるんだ。今回の依頼には救出は含まれていないが、見捨てるという選択肢がない以上、最低限人数の把握は必要となる。
ダークファンタジーではゴブリンが生殖のため他種族の女性を攫うというのが定番ではあるが、流石にトロールと人間の女性がそういった行為を出来るとも思えない。
そうなると食糧もしくは人質辺りが考えられるが、食糧であるならばまだ生きている可能性は十分にあるし、人質であるならば生存は確実だろう。
しかし、それでも時間が経てば経つほど状況が悪くなるのは間違いない。トロールの集落が人間にとって快適であるとは思い難いからな。
攫われた人達のためにも一刻も早く救出に向かわなければ!!
「へ?攫われた奴なんかいないぞ。隣の村の奴らはそんなこと言ってんのかい。」
え?どういうことだ?
「そうなのか?相変わらずギルドの依頼調査も適当だぜ。まあ人質になる人間がいない方が楽で結構だがな。」
ルーフェはサラッと村人の言葉を受け入れる。
いや、冒険者ギルド流石に適当すぎるだろ!!
攫われた人間の有無は作戦立案に大きく関わる重大事項だ。
相手のねぐらを見つけ奇襲をかける事ができる場合、人質さえいなければ火をつけて炙り出すことも出来れば、先制攻撃として威力の高い魔法を打ち込むこともできる。
逆に人質がいるという前提であればそういった手段はとることは不可能となり、何日も待ってベストなタイミングで仕掛けるといったことも出来ない。
討伐対象と実力差があれば問題ないのかもしれないが、ギリギリの戦いの場合そういった周辺情報の正確さは依頼の成否を左右しかねない要素だ…今度からギルドの依頼を受ける時には十分注意しないとな。




