舞台装置
「どの辺が無事なのよ!!刑罰が処刑にまでランクアップしてるじゃない!!!それに毒竜ってなに、安易に新キャラ増やさないで!!!!」
「甘いわね、ミカヅキ、貴方は兄様の深慮遠謀を何も理解できていないわ。考えてもみなさい、ミッドガルドで戦闘なしに終わるようなビッグイベントがあったかしら。王宮に潜入し、敵を堂々と論破する。確かに悪くないストーリーだけれど、味が薄いのよ、致命的にインパクトが足りないわ」
「別にいらないから、インパクトとか」
「ダメよ、兄様は常に刺激を欲してらっしゃるわ。この世界は兄様にとって遊び場も同然。エンタメ界において退屈は最早罪。罪なのよ、ミカヅキ。つまらない決められた結末を蹴り飛ばし、未知なる一歩を踏みだす。その先に待ち受ける困難こそ兄様が真に望むエンターテイメント。つまり、兄様は初めから毒竜を倒すというクエストのフラグを立てるために国王を利用したのよ!!死罪という判決すら兄様にとっては自らの来歴を飾るためのアクセサリー、王命という枷すら兄様にとってはティータイム代わりの退屈しのぎ。言うなれば王族ですら兄様にとっては舞台装置に過ぎないのよ!!!!」
「………あぁ、うん………そうなんだ」
天井知らずに上がっていくアツコのテンションと反比例するようにミカヅキは冷静さを取り戻し、ソファーに腰かけ、頭を抑え野良猫のようなポーズで警戒心をアピールするワカナを無理やり撫でまわす。
「あはは、ゴメンね~、アツコお姉ちゃん心配のし過ぎでちょっとハイになっちゃってて。とりあえず、お兄ちゃんにバレないうちにナナセちゃんには撤退してもらうね。あと、そろそろそっちに王女様が行くと思うから、頑張って~」
「サヤ?頑張るってなにを………切れた。ワカナ、強制的にメッセージ繋げる方法はないの」
ミカヅキの問いかけにワカナは背を丸めシャーという威嚇で返す。
不意にドアをノックする音が響き、少し間をあけてからゆっくりと扉が開かれる。
「ミカヅキ様、ワカナ様、お待たせして申し訳ありません」
クローネとリーゼロッテが部屋に入り、対面のソファーに座る。先ほどまでだらけきっていたワカナはいつの間にかちょこんと椅子に腰かけ、柔和な笑みを浮かべている。
「兄の姿が見えませんが」
リーゼロッテが顔を曇らせる。
「アタシからお話します。結論から申し上げますと、イツキ様は反逆罪の汚名をそそぐに至らず、王命により死罪を申し渡され、地下牢に繋がれることとなりました」
「理由を聞いても?」
「私の力が及びませんでした、申し訳ありません」
リーゼロッテが沈痛な表情で声を振り絞る。
「リーゼロッテ様の落ち度ではありません。イツキ様が自らの行いに叛意はなかったと釈明すれば今頃はこの場にいらっしゃったのですから。しかし、イツキ様はそうはなさいませんでした。ネロ様の悪事をつまびらかにし、王に告発されたのです。立派な態度ではありましたが、賢い行いとは言い難いです。事実、証拠なく王族の名誉を汚した罪により死を申しつけられたのですから」
「バカ兄がそんな事を?」
兄の死罪という現実を前にしながら、ミカヅキの口調はどこか明るいものだった。




