グループ通話
「遅い!!バカ兄はなにやってるの!!」
王宮内の小部屋にミカヅキの怒声が響きわたる。
「も~、みっちゃん、心配しすぎだよ、リラックスリラックス~。ほら、このソファーとかふわっふわだよ、ふわっふわ。こんな機会滅多にないんだし、一緒に寝転ぼうよ~。今なら可愛いワカナを好きなだけ抱きしめられる特典付きだよ。あそぼ~、カモンカモ~ン」
苛立ちを抑えるためか部屋中を絶え間なく歩き続けるミカヅキとは対照的に、ワカナは瀟洒な作りのソファーに横たわりその柔らかな感触を堪能している。
「心配なんてしてない、ただバカ兄が雰囲気に飲まれて何も言えてないんじゃないか気になるだけ」
「それを心配してるって言うんだよ~。でも分かるかも、いっちゃん遠慮しがちボーイだもんね。王様とかいると何も言えないイメージあるかも。よ~し、じゃあ、心配症なみっちゃんのためにワカナが一肌脱いじゃおっかな」
「何する気?」
ワカナはソファーにうつ伏せになると、耳に手を当てる。
「は~い、こちらワカナ、そっちの様子はどうですか、どうぞ」
「メッセージ?誰と話す気なの」
ワカナが人差し指を唇に当てる。
「うん、うん………ああ、そっか………ええっ!?わぁ~、大胆~」
「だから誰と話してるの」
「あっちゃんだよ」
「アツコと?なんでアツコと話す必要があるの?」
「ふふっ、ミカヅキ、甘いわね。甘いわ、ミカヅキ」
突如ミカヅキの脳内にアツコの声が流れだす。
「うわっ、何これ、勝手にメッセージ繋がったんだけど!?」
「凄いでしょ、ミッドガルドが誇るメッセージマエストロであるワカナが編み出した、48のメッセージ術の一つ、グループ通話だよ。骨伝導、留守電、割り込み通話に次ぐ大発明だよね、ワカナ可愛いし賢いし、評価ウナギライジングでしょ」
ワカナがソファーの上でクネクネとウナギの真似をする。
「これ肉体が浸食されてる感じで気持ち悪いんだけど!!というか、メッセージって留守電機能まであるの!?いや、そもそも留守電ってなんなの!!??」
「ミカヅキ落ち着きなさい。兄様の様子について知りたかったんじゃないの?」
「それはそうだけど、なんでアツコがバカ兄の状況を把握してるの。まさか………」
「あっ、みっちゃん、現場レポーターのなっちゃんにメッセージ送るのはダメだからね」
ワカナの言葉にミカヅキがため息をつく。
「アツコ、心配なのはわかるけど、もう少しバカ兄を信頼してあげなさいよ」
「え~、自分も心配してたじゃ~ん、ダブスタだ~、ダブスタ脳筋エルフだ~」
ゴッ!!という重量感のある音がメッセージ越しに共有され、ワカナは頭を抱えうずくまった。
「それで、どうなったの?」
「完璧よ」
アツコから自身に溢れた言葉が返ってくる。
「答えになってないんだけど。疑いは晴れたわけ?」
「ふふっ、そんなつまらない結末、兄様がお望みなわけないじゃない」
「はあっ?」
「兄様は無事ネロを糾弾することで挑発に成功し、死罪の代わりに毒竜を倒すという新たなクエストを受注したわ!!」
高らかに響くアツコの声を聞きながら、ミカヅキはしばし動きを止めた。




