あの日の過ち
そうだ、形式上あの興行はグランファレ商会による行われたもので、ネロはそれを裁可したに過ぎないのだろう。道義上の問題はともかく、法的な責任を問うことは難しいことは理解できる。
リーゼロッテが身を呈して市民を守ったことも、傷ついた彼女を守るため命をかけたクローネに起きた出来事も、興行におけるハプニングにすぎず、自らに火の粉が降りかからないよう、証拠の隠滅も口裏合わせも済んでいるのだろう。
それが分かっているから、リーゼロッテも事件の責任については問うことはしない。それくらいは分かっている。
ならば、あの競技場で起きた惨劇の責任は誰が負うんだ?
グランファレ商会の人間達は確かに悪人だったのだろう。私腹を肥やし、他者を抑圧し、ネロの悪事に加担した。その報いを受けたのだろう。
だが、罰とは公平な法のもとに与えられるべきものであり、為政者の戯れに消費されるべきものではない。ましてや自らの罪を覆い隠すため、他者を犠牲にすることなんてあっていいはずがない。
オレは兄として、妹達が誇りに思える人間でありたい。
誰が相手であろうと、その選択に利があろうとなかろうと、正しいことは正しいと言える人間でありたい。そう、あの日と同じ過ちを、二度と繰り返さないために。
「あの日の競技場には、貴方により無理やり戦いの運命の前に追い立てられた多くの人間がいました。彼らは善人ではなかったかもしれない。しかし、懸命に戦い、そして死んでいった。そんな彼らが守ろうとした最後に残された命。王女が、そしてその侍女が身を盾にして守った命、私はその命を助けて欲しいと貴方に願ったのです」
「………お前は自分が何を言っているのか理解しているのか?このネロが、次期国王であるこの俺が、一商会の興行に口を挟み、無辜の民が命を落とすように仕向けたのだと聞こえたが、相違ないか?」
ゆっくりと頷く。
「その行為は同意を示すものでよいな。念のため聞いておいてやろう。たかが冒険者風情が、王族が臣民を害したと告発しているのだ、証拠はあるんだろうな」
「ありません」
そう、証拠など何処にもない。
「フハハハハハッ、とうとう馬脚を露したな!!英雄気取りの狂人が、このネロの名誉に泥を塗ったのだ!!!これは最早言い逃れできない大罪!!!!父上、今度こそ止めはしませんね。国家への反逆、王宮への侵入、王族の名誉を汚した罪によりお前は死刑だ!!!!!」
国王が目を瞑り、右手をゆっくりと挙げる。
ここまでか………。
 




