言伝
「ロロ、貴方は何を言っているか分かっているの?その人間は勇者でもなければ英雄でもない。国家に仇なす反逆者。貴方はどこでその男と会ったの?」
「えっ、あっ、西の黄薔薇の庭園がある中庭で………」
まだ王宮内のどこかに潜んでいるのだろうか。それ以前に、ネロによる警戒網を搔い潜り、どのような手段により王都に入ったのか。この様子から察するに、ロロが全てを手引きしたわけでないことは明らかだ。それならば、他に協力者がいるのか、もしくは王都の結界を力で破ったのか………競技場での大立ち回りの話から推測するに、後者が正しいのかもしれない。
つまり、相応の実力があれば王都の結界を超え、王宮に容易に侵入できるということだ。これが他国の密偵や刺客であったなら………アタシは不吉な想像を搔き消すように大きく息を吐いた。
「まさか王宮への侵入を見逃したのですか?」
我ながら意地の悪い質問だ。
しかし、ロロには自らの罪をしっかりと理解させなければならない。それがロロのためでもある。
「そ、それは………」
ロロが口ごもる。
この子はわかっていないのだ。もしそんな事が露見すれば、仮に冒険者がネロへの反逆罪が不問に付されたとしても、王宮に侵入したという一点をもって投獄は免れない。いや、ネロのことだ。見せしめ、あるいは腹いせのために、あの冒険者だけでなく他の者も………。
「分かりました、貴方は大罪人に脅され、アタシを連れてくるように命令された、つまりはそういう事ですね」
「そっ、そんなわけでは………私は脅迫されたわけじゃなくて、お手伝いをしたいと思って………」
この状況にあっても保身に走らず、他者を顧みる。
美点ではあるが、魑魅魍魎が跋扈する王宮においては、あまりに無防備な性格と言わざるを得ない。
「口をつぐみなさい。先日の件もあります。恐怖のあまり真実を他者に打ち合わられないのは理解できます。しかし、貴方の行動は国家に仕える身として間違っています。厳しい処分を覚悟しなさい」
「………はい、考えが足りず申し訳ありませんでした」
ロロが目に涙を浮かべ頭を下げ、部屋を後にしようとする。
「待ちなさい、誰が部屋を出ていいと言ったのです」
「えっ?」
「貴方はアタシへの言伝を命令されたのでしょう?相手の言い分が分からなければ、今後の対処に支障が出ます。また貴方の身の危険も懸念されます。その男が何を言ったのか、教えなさい。そして、貴方の口でアタシからの言伝を男に伝えるのです。それが貴方への罰です。貴方も知っての通り、アタシは迂闊にここから離れるわけにはいきません。危険な任務ではありますが、適任者は貴方しかいません。頼みましたよ」
「は、はいっ!!」
良い子だ。
多少浅慮にすぎるところはあるけれど、真っすぐで、思いやりがあり、何より他人のために行動することが出来る、得難い資質を持っている。
アタシが王宮に居られる間は何としてでも、この子を守らなければならない。きっと、それがリーゼロッテ様のためになるのだから。




