依頼料はいかほどに
エルベスから5時間程度の道中を終えると、今回の依頼者がいる村に到着した。
村の周囲は貧弱な柵で囲まれているものの、猪ならともかくクマでも簡単に乗り越えられそうな程度のもので、トロールであれば居酒屋の暖簾をくぐる感覚で侵入してくるだろう。
オレ達は村の代表だという男から依頼内容を確認し、村長の家に通された。
村の規模は家の数からザックリ見積もって100人を切る程度。
現代日本の感覚でみると極めて小さな村だが、中世ヨーロッパでは文献で都市と書かれている場所ですら人口数百名というのが一般的だったというから、辺境で常にモンスターや獣の脅威にさらされている村落としては大きいとすら言えるのかもしれない。
依頼内容は単純明快で近隣の村を襲っているというトロールの討伐。
証拠として死体の一部を持ち帰るか、検分役となる村人を連れて死体を確認することが達成要件となる。
どうやらまだこの村自体は襲われたことはないとのことだが、近隣の村が順番に被害にあっており、背に腹は代えられないということでなけなしの金をかき集め、冒険者ギルドに依頼する事となったらしい。
依頼料は金貨換算で10枚。金貨1枚の交換レートは概ね銀貨10枚らしく、銅貨はさらにその10倍となる。
ミッドガルドでは通貨は一括してゴールドと表記され、金貨、銀貨、銅貨という概念はなかったため、この通貨制度は丸々この世界特有のものだろう。
ちなみに田舎町の安宿に素泊まりすると一人当たり銅貨3枚、まともな所で食事を取ると銀貨一枚というのが相場らしく、そこから大まかに現代日本に当てはめると銅貨一枚千円、銀貨一枚一万円、金貨一枚十万円と置き換えることが出来そうだ。
そう考えると今回の依頼料は100万円。半分はルーフェに渡すとしても、しばらくは町に滞在できるだけの金額が手に入る。
命をかけた仕事の割には安い気もするが、この村は土地も痩せていてこれといった特産物もないようなので、そんな村人が一人当たり一万円以上負担して捻出した依頼料だと考えると、これ以上を望むのは酷かもしれない。
ちなみに難易度や依頼料から考えると、ルーフェ的にはこの仕事はかなり割が悪い仕事らしいが、他には雑用のような依頼しかなかったため、オレ達のために受けてくれた形だ。
この依頼をこなす事が出来れば、一番下の白磁級冒険者からひとつ上の黒曜への昇級を申請できるというし、まずは確実に討伐を成功させることに集中しよう。
しかし、その前に一つだけ気になっている事があるので、ルーフェに質問してみる。
「ところでトロールはどう見つけるんですか?」
そう、いかにルーフェが優れた戦士であっても相手を見つけないことには始まらない。
ミスリル級の冒険者としてどんな知恵があるのか気になる所だ。
「クマや鹿を追うのと一緒さ。直近で襲われた村から痕跡を辿って行動パターンを分析するのさ。まあアイツらはバカでかいし、足跡を隠蔽するような面倒なこともしないからな。野生動物を追うよりずっと簡単に見つかるぜ。」
なるほど、思ったよりずっと地に足のついたやり方だが、ミスリル級冒険者が言うのであれば確実な方法なんだろう。
ただこの方法だと最悪何泊か野宿をすることになりそうだな…時間がかかるようであれば後からナナセにメッセージを飛ばしておこう。
「おいおい、もっと楽な方法はないのかって顔だな。気持ちは分かるがこれが一番確実だと思うぜ。この村の空き家を借りて待つって方法もあるが、トロールがいつにくるか分からないからな。」
オレなんか不満そうな顔してたか!?
パッと自分の顔に手を当てると、ルーフェの視線がミカヅキに注がれていることに気づく。
「不満はないけど、私の『サーチエネミー』を使えばより効率的にトロールの場所を捕捉できる。周囲数キロであれば大型の生命反応を探知できる魔法。」
『サーチエネミー』はミッドガルドでもよく使われる魔法で第2位階に属する。
主に通常のモンスターの探知に使う魔法で、レベリングや戦闘回避のための必須呪文と言っていいだろう。
「おいミカヅキ、大見得きって大丈夫か?こっちでどういう効果かわからないだろ。」
ミッドガルドで有効だった魔法が必ずしもこちらの世界でも有効とは限らない。一応魔法については互換性はあるようだが、威力や効果などにはかなり違いがあるのは先日の戦闘で証明済みだ。
特に探知系の魔法なんかは、実際に使ってみないことには効果が分からないと思うが…。
「試してないわけないでしょ、こんな重要な魔法。ナナセの探知能力の方が優秀だから試した結果までは言ってなかったけど、だいたいの範囲とか種族識別の感覚は掴めてきた。ちょうど都合よくオークの村に滞在してたし。」
ラグさん達の村で実験してたのか、流石自慢の妹だ。
ただお世話になってる方々をエネミー扱いして魔法を試すのはどうかと思うぞ。




