奥の手
「バカ兄、早く行きなさい!!」
オレが呆然としているとミカヅキに尻を杖で小突かれ、ディメンション・ドアで王都内部へと侵入したわけなのだ。
転移するタイミングで『いってらっしゃ~い、お土産待ってるよ~』と声が聞こえた気がするが、なんというか本当にゲーム内イベント感覚なんだよな、みんな。
オレの人探しクエストとか、本番である国王との討論イベントの前座の前座という認識なんだろうし、ここでもたつくようでは兄としての威厳が保てない。頼れるリーダーとして、誇れる長兄として、サラッとこなして敬意を勝ち取らなければ!!
しかし、いくらなんでもノーヒントはキツイよなあ。
分かっているのはロロという名前と王宮勤めの小間使いという情報、そして『すっごい可愛かったよ』というワカナのふわっふわな評価だけ。
いや、情報量の少なすぎるだろ!!!
『えっ、髪とか瞳の色とか髪型とか、あとは特徴的な持ち物とか、もう一声ヒントない?』と質問してみても『え~、ワカナは天使だからそういう細かいこと気にしないからな~。あっ、内気で幼い感じでいっちゃんが好きそうなタイプだよ』とふわっふわさはそのままに、何故かオレがロリコン認定される始末。
ワカナから見て幼いということは中学生、もしくは小学生高学年程度の容姿なのだろうが、それ位の年齢の少女に片っ端から声をかけるオッサンとか、完璧に事案だ。まあ王宮に潜入している時点で事案以前に犯罪ではあるんだが、罪状に加え不名誉な噂まで上乗せされるのは勘弁願いたい。
しかし、少し前に誘拐されたばかりとあれば、すぐに王宮の外まで使いに出されるような事は考えにくいし、王宮の外で待つといったプランは採用できないな。
となると、隠匿魔法なしに自らの身ひとつを頼りに潜入ミッションを発動させる必要があるわけだが………子どもの頃のかくれんぼですら連戦連敗だったオレが、本職の衛兵の方々を撒けるとは到底思えない。
ミカヅキのようにド派手に大魔法をぶっ放して衛兵を集めるという手も考えられるが、下手にやれば警備が手厚くなるだけだろうしな………いや、それはもうメテオの時点でなってるか。
最悪『奥の手』を使うとして、とにかく今は王宮内に侵入する方法を考えよう。
裏通りをずっと奥まで歩いていくと、遠くに一際高い壁が見えてくる。きめの細かい滑らかな漆喰に彩られた人の背丈の数倍ほどもある美しい白壁は、王宮と外界を隔てる防壁に役割を担っていることをその威容をもって示している。
王宮の周囲がグルっと壁で覆われているわけか。日本の城郭のような形状ではなく、中国の紫禁城のようなタイプというわけだな。宮殿形式であることを考えれば、壁さえ超えてしまえば内部での動きは比較的容易なはずだ。
しかし、この壁をどう超えるかだな。ミカヅキのように多彩な魔法を持っていれば、結界の有無から壁内の様子まですぐに把握できるがオレはそんな魔法持ってないしなあ。うーん、一度他の妹達ならどう侵入するだろうという観点で考えて見るか。




