共に往く
「エドガー!!どこだ!!村が、村が襲われた!!生きてるなら返事をしてくれ、エドガー!!」
ミザイは採取小屋の扉を開け、中を見渡した。
「ジル………」
すでに冷たくなっているジルの見開かれた目をそっと閉じ、開いたままの地下室への階段を下る。
どこまでも続く階段。たかだか一介の村の薬師が、独力で作り上げるのは絶対に無理だろう、深淵に繋がるかのような長い階段。
「ここは…いったい何なんだ………」
ようやく辿り着いた地下室には広大な空間が広がり、壁面には無数の魔法陣が一切の空白を許さないように刻まれている。
「ミザイ………ミザイなのか?」
牢獄にも似たうす暗く湿り気の多い地下室に、高く儚げな少年の声が響く。
「………オーティス?生きてたのか!!」
ミザイが振り返るとそこには見知った少年の姿があった。ミザイはすぐさま駆け寄り、感情を爆発させるように、その細い体を思いきり抱きしめた。
「ミザイ………僕は間違えていたんだ。全ては仕組まれていた。けれども抗えなかった。間違いを認めれば、もう二度とは帰ってこないんだ。僕達はもう、進み続けるしかないんだ」
「オーティス…お前何を………」
「すまない…すまない………」
少年はミザイの裾に縋りつき、誰かに許しを乞うように同じ言葉を繰り返した。
「………もしかして、エドガーなのか!?お前、オーティスを………」
肩を掴み前後に激しくゆすられると、少年の首は支えの壊れたマリオネットのようにグラグラと動いた。
「完成したんだ………進化の法が。生者と死者を一つの器に閉じ込める、呪われた邪法が。もう僕はエドガーでもオーティスでもない。永遠に名乗る名を失ってしまった。永遠に許されることはなくなってしまった………」
「そんな…どうして…」
オーティスだったものが顔に爪を立てると、その爪先は雨に濡れた地面を抉るように皮膚にめり込み、しかし、次の瞬間には何事もなかったかのようにあるべき造形に戻っていった。
コツリ。
石造りの重厚な地下室に不釣り合いな柔らかで、物悲しい足音が響く。
「おっ、オーティス………ううん、エドガーさん。い、いま言ったのって本当なの?」
「エルダどうしてここに………アルシラ、その怪我は!!」
エルダは血まみれになったアルシラを引きずるように一歩一歩前に進む。
「あ、アルシラが息をしてないの!!身体もドンドン冷たくなってる………エドガーさん、進化の法ってのを使えばアルシラを助けられるの!?」
「可能さ。どちらかの命が繋がっているなら、肉体も魂も何度だって作ることが出来る。でも、違うんだ………違うんだエルダ。同化された命は、一つになった魂は決して同じじゃない。アルシラは帰ってはこないんだ、二度と」
「そ、それでも、アルシラと一緒になれるなら、アルシラの側にいられるなら、私は一緒にいたい!!え、エドガーさんがオーティスと離れ離れになりたくなかったみたいに、私も………」
「止めるんだ、エルダ!!始祖はそんなことを望んではいない!!」
「始祖は………始祖はなんで私達を助けてくれないの?これまでも、今日も、これからも………あんなに祈ったのに、皆どれだけ酷い目にあっても信じてたのに!!ジルさんは毎日村の皆のために祈ってた!!お祈りなんて無駄だって言って何もしなかった私は生きてて、ジルさんは死んだんだよ。どうしてなの!?アルシラだって………アルシラだっていつも私達を元気づけてくれた、私よりアルシラが生きてれば良かったのに………」
嗚咽混じりの抗議。
その叫びはミザイに対するものではなく、自らを取り巻く運命、そして始祖をなじるものだった。
「私がアルシラになる。アルシラと一つになって、強くなって、四罪になって、皆を、世界中の始祖の民を助ける。エドガーさん、お願い、アルシラを、私を救って」
エルダの瞳は真っすぐと前を見据えていた。




