トロールの脅威
「トロールってどんなモンスターなんですか?私見るの初めてなんです。」
サヤがルーフェに話しかける。
相変わらず人を蕩かすような笑みを浮かべており、ルーフェは話を振られるたびに分かりやすくデレデレになっている。
やはりこういう雑談はサヤの人懐っこさと如才なさが活きるな。
逆に情報収集ではアツコやミカヅキの率直な物言いが活きる。
雑談はサヤに、情報収集はアツコ、ミカヅキに任せ、オレはその会話に交じるくらいの気持ちでよさそうだ。
「トロールってのは、簡単に言うとバカでかくて力が強い種族だな。小さくても3メートルはあって、デカい奴で5メートル、伝承では10メートルを超すトロールもいたって話だ。俺が戦ったことがあるやつはそこまでデカくなかったが、のろまそうな見た目の割に普通の戦士くらいにはすばしっこかったし、少しくらい傷つけてもすぐに回復するしで、とにかく厄介な敵だったな。ウォーメイスでの攻撃は剣で受け流しただけで腕がもげるかと思ったぜ。神の祝福をうけた種族じゃないが、神の許しをうけた種族ってことで、括りとしては亜人でモンスターじゃないらしいぜ。俺達冒険者にとっちゃ亜人だろうがモンスターだろうが討伐対象であれば関係ないがな。この国ではあまり見かけないが、お隣さんなんかじゃ人間と共存するトロールもいるらしい。」
「モンスターみたいに悪いトロールばかりってわけじゃないんですね。でも、それならどうして討伐依頼があったんですか?」
サヤは分からない風を装って更に問いを重ねる。
男はこういう知らないフリが上手くて、気持ちよく語らせてくれる女の子に弱いんだよな…オレも何回騙されたことか。
「人間にもサヤちゃんみたいなカワイ子ちゃんから、金髪エロ垂れ目みたいなロクでもないクズ野郎がいるように、トロールにも色々なやつがいるって事さ。ただ家畜をさらったり、自分たちの縄張りに入ってきた人間を追い払うだけならともかく、近隣の村を襲っては女子供をさらい、男を殺して回ってるっていうなら話は別だ。そんな奴らはモンスターと変わらないだろ?今回の相手はそういう輩ってことだな。銀等級以上の冒険者求むって大層な見出しのついた依頼だ。そこまで難易度の高い依頼じゃないが、ブランク空けのリハビリ代わりにはちょうどいいさ。今回は頼れるお仲間もいるし、楽させてもらうぜ。」
ルーフェはそう言って笑った。
ミッドガルドではトロールはプレイヤーのキャラクターとしても選ぶことができ、ストーリーでもどちらかというと味方のようなポジションで登場することが多かった。
一部の知性の低い亜種を除いては言語が通じる種族ということもあって、トロール討伐と聞いた時にすこし可哀想だという気持ちも湧いていたが、そういった輩であれば手加減は必要ないだろう。
オレがこれからの冒険に思いを馳せていたところ、脳内に伝達魔法であるメッセージの音が響く。
「ねぇねぇ、いっちゃん、凄いよ!!見つけたの大きいヘビ!!なんか凄い色してるやつ!!鱗がすっごいの。飼えないかな、どっかで。」
この声と内容はワカナか?
メッセージはミッドガルドの最も基本的な魔法で、これがないと他プレイヤーとの通信に不便というメタ的な必要性もあり、純粋な戦士職でも覚えることができる数少ない魔法のひとつである。
正直メッセージがないとメチャクチャ不便なため、魔法枠が圧迫されているオレでも絶対に削除したりはしない超最重要魔法だが、ロールプレイを重視するツワモノの中には意図的にメッセージを使わず、その不便さを楽しむ人もいるらしい。オレにはたどり着けない境地だな。
とりあえず今はルーフェもいるため、迂闊にメッセージで会話をするのはまずい。
ミッドガルドでは一般的な魔法であるメッセージだが、この世界でどういった扱いであるかは分からない。ひょっとしたら宗教上の禁忌に触れる魔法であったり、使える者が限られた高位魔法である可能性もある。
異国出身ということで多少の変わった行動は見逃されるだろうが、不審に思われるような行動はなるべく避けたい。オレは隊列からわざと遅れ、小声でワカナに聞き返す。




