作られた笑顔
「天地を作り、我らが犯した四つの罪を許したもうた始祖よ、今日という奇跡を喜びと共に迎えられたことを感謝いたします。じゃあ、皆そろったわね、いただきます」
「「「「いっただっきま~す!!」」」」
始祖への祈りが終わるや否や、食卓に4つの歓喜が重なった。子ども達は木をくりぬいただけの粗末で大きな器に盛られたスープに我先にと手を伸ばし、同時にテーブル上に無造作に置かれた狼肉を掴んだ。
「アルシラ、お行儀が悪いわよ。女の子なんだし、もう少しお淑やかにしなさい」
アルシラは頭を軽くはたかれ、頬を膨らませる。
「皆が遅いのが悪いんだよ、ミザイも言ってた、結界の外じゃノロマからやられるって」
「まあミザイがそんなことを。いけない大人ね、今度叱っとくわ。でもね、結界の外はそんなに怖い所じゃないのよ」
年かさの女性は優しい声で諭すように言うと、改めて小さな器にスープを盛り直し、まだ手をつけていなかったエルダに渡す。
「でっ、でも、さっき集会所で大人が四罪が殺されたって言ってた。ここにもすぐにでも人間が攻めてくるって………どうしてなの?私達はそんなに悪いことをしたの??」
嗚咽混じりの言葉を漏らすエルダを年かさの女性が強く抱きしめる。
「大丈夫、私達が教えを守って謙虚に敬虔に生きていれば、きっと始祖が助けて下さるわ。ずっとずっと平和よ。だから安心して」
「嘘だよ。人間は私達を皆殺しにしたいんだ。それくらい子どもだって知ってる」
「アルシラ、何をいうの!!」
「本当のことだよ。皆言ってるもん。だからアルシラが誰よりも強くなって皆を守ってあげる。ミザイもアルシラなら絶対に強くなるって言ってくれたもん。たくさん食べて、大きくなって、1年で四罪になるから待ってて、エルダ」
アルシラは胸を張り、エルダの頭に手を置いた。
「なんでだよ、アルシラは女の子だろ。僕が強くなって四罪になるんだ」
「オーティス、身体が弱いんだから無茶を言わないの。貴方はお父さんの後を継いで薬師になりなさい。知識はきっと村の皆の助けになるわ」
「そうだよ、にぃには喧嘩より草とか花とかいじってる方が似合うよ」
「やだよ、皆馬鹿にするし」
母と妹から交互に諭され、オーティスは頬を膨らませた。
「ははっ、薬師なんてのは馬鹿にされてるくらいでちょうどいいのさ。父さんが忙しくなるってことは、村の皆が苦しんでるって事だからね」
「そうそう、四罪になるのはこのアルシラ様に任せて!!オーティスもティアルマもエルダも守ってあげるんだから」
アルシラは笑い、それにつられるように残りの子ども達も笑った。
無理やり作られた子ども達の笑顔を目の当たりにし、二人の大人は食卓の下で拳を固く握りしめた。




