ワカナの祈り
「兄さん、着きました、この村です」
「寂れたところね、こんな所になんの用なの?」
アツコの言う通り、ナナセの先導により辿り着いた村は、なんの変哲もない田舎町といった鄙びた場所だった。ワカナがこの村に用があるとは言っても、パッとイメージができないのは確かだな。
ナナセが言うにはワカナも村の名前を聞いただけで正確な場所を知らなかったため、空いた時間でコツコツと聞き込みを行って、つい先日ようやく特定できたらしい。
「ワカナ、誰か知り合いでも出来たのか?一緒に誘拐された子か?」
オレの言葉にワカナが首を振る。
「違うの、ここはね、誘拐ブラザーズの村なんだ」
ワカナはそう言って無理矢理笑顔を作った。
「メッセージで言ってた誘拐犯の兄弟か。どうしてそんな奴らを尋ねに」
ワカナはオレの問いが聞こえたのか聞こえていないのか、一人村の中央に向かい歩き出す。冒険者然としたオレ達の出で立ちは平穏な田舎の村においては異質であり、すれ違う村人は一様に奇異の視線を向けてくる。
「すいません、イシュナという女の子はいらっしゃいますか」
「………あんた等はどこの人かね、見ない顔だが」
「イシュナさんのお父さんにお世話になった者です。頼まれ事がありまして、お伺いしました」
ワカナは柔和な笑みを崩さず、落ち着いた声でゆっくりと答える。普段は子どもにしか見えないワカナが、この時ばかりはオレと変わらない年齢の思慮深い女性であるかのように思える。
「そうか、イシュナの家はあのパン焼きかまどの裏にある。ここまで訪ねてくるってことはあんたも事情は知ってるんだろうが、私達は行けないからね………あの子を頼んだよ」
「ありがとうございます」
ワカナは視線を逸らしながら逃げるように呟く老婆に丁寧に頭を下げ、指し示された方角に歩を進める。数分も歩くとところどころ壁が剥がれたみすぼらしい家に着き、ワカナは衣服を正す。
「兄さん、あまり大人数だと威圧感を与えてしまいます、私達は少し離れた場所にいましょう」
ナナセがそう言うと、妹達もそう思っていたのか、ワカナを見守るように数十歩ほど後ろの木陰の下で待つ事にする。
ワカナがコンコンと戸を叩くと、少し間を開けてからオレと変わらない妙齢の女性が表に現れ、突然の来訪者に困惑した表情を浮かべる。
「いきなり押しかけて申し訳ありません。イシュナさんのお父様から娘さんを診て欲しいという依頼を受けまして、伺わせていただきました。まだ駆け出しの冒険者ではありますが、神より治癒の奇跡を授かっております。宜しければ娘さんに祈りを捧げさせてもらえますか」
ワカナの言葉が風を伝い鼓膜を揺さぶる。不慣れな言葉で懸命に取り繕うワカナの姿はどこか滑稽で、けれども凛としていた。
母親であろう女性は怪しげな申し出に最初こそ困惑していたが、次第に状況を飲み込むことが出来たのか、木陰で待つオレ達に黙礼したあと、ワカナを家に招き入れた。




