開戦
「ワタクシには分かります、貴方達の苦しみが。ワタクシには聞こえます、貴方達の心の叫びが。今のワタクシはこの身の一部を失った痛みよりも、貴方達と共に苦しみをできる喜びが勝るのです。さぁ竜燐の騎士殿、旭日の師団の皆様、共に尊い理想のために戦いましょう!!世界をあるべき姿に戻すのです!!!」
「話はそれだけか?」
ハイリッヒが剣の切っ先をミザイに向ける。
「ふふ、たかだか一片の弁舌で心代わりをするような方でないことはよくよく存じ上げております。所詮この世は力が全てを支配する愚かな喜劇にすぎません。ならばこの場で力の一端を示し、我らが理想を叶えるに足る実力を有していることをお伝えするに留めましょう。アルシラ、手伝っていただけますか?一人で竜燐の騎士殿と旭日の師団の皆様を同時に相手にするのは少々骨が折れますので」
「相変わらず回りくどいねぇ、私は最初から殺りあおうって言ってたんだ、異論はないよ」
「では、始めましょう、新しい世界の幕開けに相応しい饗宴の時を」
ミザイがスッと5本のうちの1本の腕を掲げると、両脇に控えていた獣人たちが無言で城壁から飛び降りた。
「私は蜘蛛人を引き受けます。皆さんはダークエルフを頼めますか」
「はんっ、儂らが散々苦労した獣人共は敵の頭数にも数えられんというわけか、どうやら恐ろしい戦いに身を投じることになったな」
「キャハッ、リベンジマッチだね。ボクは願ったり叶ったりだけど、ゼライアス、いいよね?」
「無論」
ゼライアスが短く答えると、全員が一斉に武器を構える。
「まずは厄介な獣人さん達からですぅ!!木よ木よ森よ、大地の精よ、暇してるなら遊びにおいで、楽しい寝床が待っている。第5位階『大森林』!!」
ココロトが詠唱を終えると、石畳の隙間から僅かに芽吹く木々がまばたきをするうちに大木へと変貌し、その先端は意思持つ鞭となり地面に降り立った獣人達を絞め殺さんばかりの勢いで巻きつく。
「危ないねえ、巻き込まれるところだっただろ。いきなり大魔法うつんじゃないよ!!」
「先手必勝ですぅ、大乱戦には開幕ぶっぱが基本だって誰かが言ってましたしぃ。これで片が付いたら私だけ竜燐級ってことでいいですかぁ?『竜燐の清楚で清廉なる清らかな美少女』悪くないですねぇ」
「どうやら、その間抜けな異名はお預けのようじゃ」
ゴアァッという咆哮とともにメキリという乾いた音が響き、幾重にも巻き付いた自然の拘束が圧倒的な膂力のまえに解かれていく。
「そんなぁ、私のとっておきをすぐに破るなんて化け物ですかぁ!?」
ココロトが悲鳴のような声をあげると、一本の矢がその嘆きを切り裂くように飛来し、先頭の獣人の脳天を撃ち抜いた。
「驚いてる暇があったら手を動かすんだね、初動を抑えられただけでも上出来だ。今のうちに数を減らすよ」
「ココロト ニ マケテ ラレナイ………フンッ!!!」
カーコ=イ=シーザは地響きを鳴らしながら敵のもとに駆けると、背丈ほどもある大槌を湾曲しそうなほどの速度で振り回し、身動きの取れない獣人達をまとめて横薙ぎにする。
ゴシャっというくぐもった音とともに、バラバラになった手足が飛び散り、木々のキャンパスに赤黒いアートを描いていった。




