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トリコロールヒドラ

 どれくらい進んだだろうか。


 わずか数十分の空中散歩により、眼前の森は随分形を変えている。

 木々はより高くなり、切れ目から見える地表は一層暗さを増している。

 ふと森にポッカリと穴が空いたように木々が朽ちている場所が視界に入った。


「あそこなんだろ?降りてみよっか。」


 そういって木々の切れ目に降り立とうとした瞬間、森の隙間から何か巨大な塊がワカナ達を目がけ凄まじい速度で飛んできた。


「わっ、危な〜い。」


 ゴウッ!!という鈍い音を立て飛翔する物体を、ワカナは地面の水たまりでも避けるような呑気さで回避する。


「お姉ちゃん、今のなに!?なんか飛んできた!!」


 ウグの鋭敏な五感が悲鳴を上げる。普通のオークの子ども達であれば、自分の身に何が起こったかすら分からなかっただろう。


「岩だね、大きな岩。もぅ危ないなぁ、当たったらどうするつもりだったのかな。」


 ワカナは『むぅ~』と言いつつ頬っぺたを膨らませる。


「お姉ちゃん、怖い。変なモンスターでもいるのかな!?」

「私がついてるから大丈夫、大丈夫。なにがいるか確かめてみようよ、これも冒険冒険。」


 ワカナはそう言ってもう一度地表に降りようとすると、今度は明確な敵意を持って複数の大岩が投げられる。


「ノーコン~、当たらないよ~。」


 ワカナは舌をペロリと出しながら華麗に宙を舞い岩の弾幕を避けると、興味本位に木々にドーム型に覆われた岩の出どころを覗き込む。


 そこには極彩色の鱗に包まれた、体長数十メートルはあろうかという六叉の首を持つ大蛇がとぐろを巻いており、その鞭のようにしならせ次々と岩を投げている。


「ウグちゃん、今の見た?ヘビいたよ、ヘビ。すっごい大きいの!!首使って岩投げてるんだね、器用~。」


 ワカナはもう一度高く飛び上がる。


「『メッセージ』。ねぇねぇ、いっちゃん、凄いよ!!見つけたの大きいヘビ!!なんか凄い色してるやつ!!鱗がすっごいの。飼えないかな、どっかで。」


 ワカナは興奮まじりにイツキにメッセージを送る。


「その声はワカナか?ヘビ?ヘビがいるのか、珍しい。うーん、オレは嫌いじゃないけど、皆はどうかな。ちょっと聞いてみるか……………………ワカナ、残念なお知らせだ。みんなヘビあんまり好きじゃないらしい。小さくて可愛い奴なら良いかもだが…ちなみにどれ位の大きさだ?」


 そう言われマジマジと眼下の大蛇に視線を送る。


「ウグちゃん、あの蛇どれくらいの大きさだと思う?」

「え、うーん。山、山みたいに大きいよ!!」

「山かぁ、ふふ、やはりウグちゃんはお子ちゃまだね。山はそれぞれ大きさが全然違うから、山みたいって言っても伝わりにくいんだよ。エベレストとかチョモランマとかサガルマータとか色々あるんだから。これからワカナが大きい物を表現する時に、一番役に立つ言いかた教えてあげるから、よ~く勉強するように。」


 ワカナはフンフンと得意げに鼻を鳴らし、薄い胸をまたまたこれでもかと張った。


「東京ドーム一個分くらい!!東京ドームくらい大きいよ!!」

「東京ドーム!?それは大きすぎないか、っていうかどうして東京ドーム知ってるんだ?」

「前にいっちゃんが大きさを表すときは東京ドーム使うって言ってたよ~。」

「ああ、そんなこと言ってたっけな…それにしても信じられないくらい大きいヘビだな。ひょっとして襲われてたりするのか?強敵で困って助けを求めてるとか!?」


 イツキの声が一瞬にして緊迫感に満ちたものに変化する。


「なんか大きい岩投げてきたり…いま光線みたいなの吐いてきた、なんか酸的なやつも出てるかも?でもあんまり強くはないと思う。」

「そうか、投石に強酸に光線…たぶん熱線だな。その特徴からすると恐らくトリコロールヒドラだな。首が三本あるだろ?」


イツキの言葉にワカナはもう一度慎重に首を数え直す。


「六本あるよ。」

「六本?この世界のトリコロールヒドラは大きいうえに首まで多いんだな。トリコロールヒドラならミッドガルド基準で考えれば50レベル位だからワカナ的には大した相手じゃないだろう。そんなに巨大で獰猛なモンスターが近くにいたらラグさん達の村も危ないし、可能なら退治してくれ。ただ怪我しないようにな、少しでも変だと思ったらすぐ逃げるんだぞ。こっちの世界のモンスターの強さがミッドガルドと同じとは限らないからな。」

「うーん、キレイな鱗してるから倒しちゃうのちょっと勿体ないけど、凄い色々攻撃してくるし、なんかシャーシャー言って興奮してるし、ほっとくと危ないかも。じゃあ、パパっと倒してお土産に鱗持って帰るね~。」

「ああ、楽しみにしてる。くれぐれも気をつけてな。ナナセにもよろしく。」


 メッセージが終わるとワカナは天高く舞い上がる。

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