一縷の望み
「ダメ」
「なんで?大量誘拐に儀式魔法での合体。神兵とかいって軍事的に悪用する気も十分。どう考えてもここで潰しておいたほうがいいと思うけどなぁ」
「彼女………いいえ、彼と彼女は私達と同じく誘拐されただけの被害者。殺せない。他の敵も無理やり言う事を聞かされてるだけかもしれない」
「甘いなぁ。この状況で一人ずつ尋問でもするつもり?逃げられたらもっと被害が増えるよ。それに無理やりだって自主的だって、やってることは同じじゃない。誘拐されたり、殺されたり、犠牲になる人にとっては同じ。悪意の有無より、行動の結果で判別しないと。ここにいる敵はみんな悪。ならやるべき事は一つでしょ」
甘く囁くような声が脳内で反響する。
「それに見て、あの姿。あんな醜い姿に成りはてて、まだ生きていたいと思う?自由を奪われて、もう二度と家族にも友人にも仲間にも会えず、生きる意味もないなか、命令されるがままに動く哀れな操り人形。きっと思ってるよ、もう殺してくれって。きっと願ってるよ、解放してくれって。なら望みを叶えてあげるのが優しさじゃない?私達しか助けられないんだよ?大丈夫、ミカヅキちゃんが出来ないなら私が代わりにあってあげる。大事な家族だもん、辛いことはさせられないから。言って、私に好きにしていいって。私の自由にしていいって。そうしたら、きっと全部うまく行くから」
心を蕩かすような熱を帯びたサヤの囁き。蠱惑的な響きに思わず首を縦に振りそうになる。
「ダメ。殺さない、殺させない。全員この場で捕縛する、囚われてる人間も救う」
「………はぁ、脳筋なんだから。じゃあ、私はお邪魔虫みたいだから隅っこで寂しく素数でも数えてるね、ばいば~い」
サヤの気配が消えると、入れ替わるように敵が襲いかかってくる。
1、2、3、4………合体したばかりの少女を加え7体もの神兵。しかも、増援の6体は完全装備だ。神兵という大袈裟な名前がこけおどしであることを祈るしかない。
まずは動きを止める。
「ヒートウェイブ」
皮膚を焼くほどの熱波がドーム一面を覆いつくす。不味い、想像以上の威力と範囲、ミッドガルドとは桁違いだ。
私は周囲の状況を確認する。
敵は………大丈夫だ、動いている。肺を焼かれた痛みと、肌を刺す苦痛で動きが鈍くなっているものの、神兵のうち何人かは既に私に向かい動き出し、残りは体勢を整えている。台座のうえで観客気取りの魔法詠唱者達は咄嗟に張ったマジックバリアで威力を減衰されたようで、何名かはうずくまり胸を抑えているが、命に関わるようなことはないだろう。
「エアーボム」
追撃。空気の爆弾を連続で射出する。近づこうとするものが次々と破裂する衝撃波に巻き込まれ、ノックバックを起こす。ダメージこそ軽微だが、体勢を崩すとともに確実にスタミナを削ることが出来るミッドカルド謹製の嫌がらせ魔法だ。
「ふぃ、フィアーネィる!!」
空気の弾幕をかいくぐり、一人の神兵がスキルを用い首筋を引き裂こうとその鋭い爪を振り回す。
「パラライズ」
攻撃が喉元に触れようとする瞬間、敵は硬直しその爪先は触れることなくダラリと垂れ下がる。麻痺も効く。儀式魔法により2つの生命を融合しているとはいっても、基本的な身体構造は通常の生物と変わらない。先ほどの様子から見る限り不安定ながら言葉もスキルも使える………本人の意思もあるはず。
なら、まだ救える、きっと直せる。
元通りに戻る可能性はある!!
 




