痛みと恐怖
このような状況のため、火力特化型で詠唱時間の長い始祖の魔法がメインウェポンとなるオレは狭い場所での多対一を極めて苦手としているのだ。
余ったポイントで低位の攻撃魔法はいくつか有しているが、逆に上位の位階の攻撃魔法は皆無のため、今回の敵のような低位位階の攻撃魔法が通らない敵に対しては限りなく無力に等しい。
かといって相手を一発で屠れるであろう極位や神位、そして始祖の魔法は、詠唱時間が長すぎて間合いを詰められ妨害されること請け合い………いや、いくつか手段はあるにはあるが、想定される被害があまりに大きすぎる。最後の手段として残しておくべきだろう。
こんなことになるならネタ魔法枠を削って、使い勝手のいい高位の位階魔法を増やしておくべきだったな。
「くっ!!」
考えごとをしている間にも敵は間合いを詰め、戦士と思われる前衛が横なぎにした剣が腕を掠める。
痛みは………微かにある。傷こそついていないものの、軽く手で払われるような感覚は確かに存在する。今のはあくまで掠っただけだ。直撃すれば、そして相手がスキルを発動させた状態であれば無傷というわけにはいかないだろう。
「うぉっ」
前衛に気を取られていると、遠くから高速度の火球が飛来し鼻先で炸裂する。呼吸に炎が入り込み、ほのかに鼻腔が焼ける臭いがした。ファイヤーボールか!?第5位階の魔法だが、精神的なダメージこそあっても、肉体には一切の痛痒はない。
なるほど、魔法職であるオレにとってはこのレベルの魔法であれば直撃しようがノーダメージというわけか、やっと勝手が分かってきたぞ。ノーダメージならば詠唱中断効果もゼロだ。そうであるならば、後衛は弓を除いて無視していい。とにかく前衛を一体でも倒し、突破口を開くのが先決だろう。
オレは再びディメンションドアで距離を稼ぎ、詠唱に入る。
敵が低位のNPCのような単純な動きであることが功を奏し、この狭い空間のなかであっても常に一定の距離が取れる場所があるのは有難い。戦いなれた人間相手であれば、まず安地を潰しにかかるからな。
時間を稼ぎ、各個撃破の隙を作るなら手持ちのカードではこれしかない。
「ダークネスバインド!!」
地面から無数の黒い手が伸び、敵の足に絡みつく。よしっ、近くにいる前衛の動きは止められた………いや、拘束が甘いか!?
黄泉の国からの誘いを振り切るように数体の戦士が距離を詰め、その内に一体が喉元をめがけ槍を突き出す。
「ちぃっ!!」
オレは身体をひねりその一撃をかわすと、杖で頭部を殴りつける。敵の頭蓋骨が欠け、骨の一部が勢いよく散らばる………今度こそ一体仕留めたか!?
のけぞる相手に追撃をしようとした瞬間、敵の瞳が青く燃え上がり手にした槍が鈍い輝きを帯びる。
攻撃スキルか!?避けなければ………
「ぐはッ!!」
距離を取ろうとするオレの肺を一本の槍が貫く。
いや、貫いたというのは幻覚だ。しかし、オレの身体には確かに肉体を貫かれたほどの衝撃が残っていた。何を喰らった?『龍突』か『スパイラルスティンガー』か??
咄嗟にディメンション・ドアを使い、後衛の後ろまで回り込む。
痛い。
先ほどとは違い確かな痛みがある。子どもに小突かれた程度ではあるが、ダメージが通っている。直撃であればダメージを喰らうのだ。
 




