零れ落ちる勝利
「骨を盾にして自分は安全圏からチクチクやろうってことかい。悪魔らしい陰湿な戦法だね、ただ効果的なことには違いないよ。悪魔には神聖魔法でもない限り効果は薄い。どうするユウ・リュー」
「チィッ!!逃げようにも、退路は塞がれてるぞ!!」
奥からは鉄と鉄が激しくぶつかる音が響く。金等級の剣士とはいっても、この数のスケルトンウォーリアを長時間抑えきるのは難しいだろう。手前からは先ほど砕け散った戦士を残骸を踏みしだきながら、次々と新手が現れ包囲の輪がじりじりと縮まっている。
「キャハッ、どうせ死ぬなら前のめりってね。あの不細工が魔法を唱えたら、奥は放棄して不細工めがけて全力で突っ込むといいんじゃないかな。ボクとジグニが援護して、キミの剣先が不細工に届けば助かるし、届かなければ全滅。わかりやすいでしょ」
「それしかないね。どのみち物量で押されればジリ貧だ。アタイは乗ったよ、アンタはどうする」
「………今回だけは協力してやる、チビに鳥、失敗するんじゃねえぞ」
「キャハッ、可愛げのないガキだね………いくよ!!」
廊下を這うような重々しい詠唱が終わりの時を迎え、次の瞬間、狭い廊下を丸のみにせんばかりの巨大な火球がスケルトンウォーリアをなぎ倒しながら射出される。
「魔素よ集いて糸となり、布を紡ぎて壁となれ。二重詠唱『マジックバリア』!!」
ユウ・リューが唱えると前方に二重の魔法のベールが出現する。巨大な火球が透明な膜に阻まれ、異常なまでの熱気が古城を覆っていた埃を焼き払う。
「もう少し気合入れて防ぎな、羽根が焦げるだろうが!!」
「キャハッ、ボクがいなかったらとっくの昔に焼き鳥の癖に、注文が多いんじゃない!?でも、そろそろ限界だね………一か八か賭けだよ、ボクの後ろに伏せな!!」
ユウ・リューは咄嗟に一枚目の障壁の形状を円形に変えると、もう一枚を布のように変化させ身体を包む。せき止めていた壁が霧散したことで行き場を失った炎は、新たな酸素を貪り尽くすように上方を飲み込み、火の渦となって後方のスケルトンウォーリアを焼き尽くす。
「自分の手で火葬してやるなんて、なかなか仲間想いじゃないか」
ジグニの言葉に激高したのか、デーモンはギリギリという金属をこすり合わせたような不快な雄たけびをあげ、再び詠唱に入る。
「させないよ!!」
銀の弓矢が風を裂き、遮蔽物を失ったデーモンの左目を貫く。
グォォォォォ!!!!!!という苦悶の叫びが刃物のように空気を刻み、肌を震わす。
「トドメだ!!」
魔力の傘から抜け出したカイルは獣のように身を低くして駆けだすと、射抜かれた箇所を押さえながら悶絶するデーモンの首筋めがけ剣を跳ね上げる。
同時に首筋から黒く濁った血液が吹き上がり、天井に歪な紋様を刻み込む。
「浅いっ!!」
ジグニが叫び、デーモンはニタリと口の端を歪める。跳ね上げられた切っ先は確かに喉元を捉えていたが、首を切断するには至らず、その硬い皮膚を引き裂くにとどまっていた。
渾身の一撃を繰り出し体勢が崩れるカイルを尻目に、デーモンはその右腕を天井に届きそうなほど高く振り上げ、その鋭利な爪は舞い上がる火の粉をうけ赤銅色に鈍く輝く。カイルはその一撃を受け止めようと振り切った剣を引き戻そうとするが、その動きは明らかに機を逸したものであった。




