一方、竜のねぐらでは
「ワカナお姉ちゃん今度はあっちいこーよ。」
「おーけー。ここら辺にあるやつ全部取り尽くしちゃお〜。」
「ナナセお姉ちゃんお花の冠作って〜。」
「私も私も〜。」
「はーい、順番ね。」
森の奥深くで子供たちの楽しげな声がこだまする。
「子供たちの世話を任せちゃってごめんなさいね。おかげで作業に集中出来るわ。」
背中のカゴに香草やキノコを一杯に詰めたダグがワカナとナナセに礼を言う。
「でも全部取り尽くしちゃダメだからね。一株から少しずつ頂くの。来年もまたよろしくねって言いながら感謝を込めてね。」
ラグは子どもたちに言い聞かせるように語るが、ワカナに先導された子ども達は親の言いつけなどどこ吹く風と言わんばかりにドンドンと森の奥深くに入り混んでいく。
「しょうがない子たちね。」
ダグがそう言うと、ラグは目を細めて笑った。
「貴方達が来てから子ども達も楽しそうだわ。」
「私も兄妹が増えたみたいで楽しいです。」
ラグ率いる一行はオークの村から徒歩で3時間ほど森の奥に入った場所に、狼料理に使う香草やキノコ、薬草などを採取に来ていた。
森には狼を始めとした野生動物、ゴブリンなど好戦的な亜人がおり、常に危険が潜んでいるためいつもはラグ一人で来ているのだが、今日はナナセとワカナという強力な助っ人がいることもあって子ども達4人も合わせ、計8名の大所帯となっている。
「でも随分長く作業していたから、そろそろ帰らないと帰りには暗くなっちゃうわね。おーい、皆お昼にするから戻ってきなさい。」
「はーい!!」
遠くから微かな返事。
「まだまだ遊び足りないわよね。もう少し時間がかかりそうだし、ここで待ってましょう。」
待つこと数十分、ワカナに引き連れられた子ども達が帰ってきた。
子ども達のカゴには様々なキノコが乱雑に詰め込まれ山盛りになっている。
「これほとんど毒キノコじゃない!ダメよ、見たこともないの採ってきちゃ。」
「でも、ワカナお姉ちゃんが多分大丈夫だって〜」
子ども達の泣きそうな声。
「キレイな色してるからイケると思ったのに~。お花の代わりに花瓶にいけるとかで使えないかな?」
ワカナは責任を感じているのか、必死に頭をひねっている。
「残念ながら無理ね。キレイでも毒があるものを家に置いておくのはおっかないもの、捨てちゃいましょう。でもせっかく採ったのをただ捨てるのは勿体無いわね。ダグならどんな毒キノコか分かるだろうし、名前とか特徴、食べたらどうなっちゃうか勉強会をしましょう。きっと将来役に立つわよ。」
ラグの言葉に子ども達の表情は輝きを取り戻す。
「そういえばさっきからウグの姿が見えないけど、皆知ってる?」
「ウグならさっきまで私達と一緒にいたよ?」
「なんかもっと森の奥に行って凄いの見つけるんだって言ってた。お父さんとお母さんに持って帰るんだって。」
「一人で森の奥に!?あの子ったら鼻が利くからってすぐ遠くにいっちゃって。不味いわね、ウグの鼻なら私達の位置がすぐ分かるから気にしてないんだろうけど、獣やモンスターに襲われたら一大事だわ!!」
「大丈夫です、安心してください。」
焦るラグにナナセは優しい声で言い、目を閉じると耳を立てピクピクと動かす。
「こちらの方角から子どもの足音が聞こえます。少し距離はありますが、歩調もたしかで何かに追いかけられてる様子もないです。私が追い駆ければすぐ追いつけますから。」
ナナセはそう言ってから、ラグの不安を拭い去るようにニッコリと笑う。
「なっちゃん、ワカナが行くから任せて。」
ワカナが口を開く。子ども達と遊んでいた手前責任を感じているのだろう。
「大丈夫?見つけられる?」
「近くまで行けば魔法で探せるから一発だよ。皆はここで待ってて。」
「じゃあ、お願いできるかしら…ってもう行っちゃった。相変わらずせっかちねぇ。」
ワカナは名誉挽回のチャンスに話もそこそこに捜索に向かう。




