感謝と謝罪と
「沈む気満々なのが逆に頼もしいですパイセン!!」
「ゴチャゴチャとうるさいガキどもだ。あの男二人は殺せ、俺はこのガキ達だけでも連れ帰る。集めた生贄が逃げたなんてことがあの女にバレたら、全員あの世行きだぞ!!」
衛士達はなんの警戒もなく詰め寄ると、そのうちの一人が武器を持たないワカナの肩を目がけ、樫で出来たこん棒を無造作に振り下ろす。
「ダメだよ、女の子たたこうとするなんて。痛いんだからね、これ」
ワカナはそう言って、振り下ろされた樫の棒を家族から食具を受け取るような気軽さで取り上げると、狼狽する衛士の鎖骨をコツンと叩く。
「グガァ!!!!!!」
グシャリという骨が粉々に砕け散る乾いた音が夜の闇に吸い込まれ、同時に衛士は痛みをこらえきれず昏倒する。撫でるような優しさで触れただけにしか見えない一撃だが、衛士の鎖骨は大岩の崩落に巻き込まれたかのように深く陥没し、どす黒く変色している。
「ははっ、やりすぎたなう」
ワカナは自分の失敗が面白かったのかカラカラと笑い、力加減を確かめるようにこん棒を何回か振る。子どもが拾った木の枝で剣士ごっこをするかのような無邪気でこん棒を振るう姿を、衛士達が恐怖に濁った眼で凝視する。
「な、なんだコイツ。おいっ、このガキ馬鹿力だぞ!!少々傷ついても構わん、取り囲んで動けなくしろ!!」
衛士の長らしき男が命令すると、号令一下統率のとれた槍衾が少女の柔らかな肢体を串刺しにせんと突き出される。
「わっ、囲まれちゃった」
ワカナがなんの感慨も伴わずに事実を口にすると、一本の槍が太ももをとらえ、ゴッという木で大岩をついたような低い音が響く。
衣服にすら覆われていない素肌であるにもかかわらず、鋭く研ぎ澄まされた鋼鉄の切っ先はワカナの皮膚を一ミリたりとも動かすことが出来ず、ただ槍を押し込もうとする衛士の顔色だけが青ざめていく。
「あー、こうなるんだ、なんかちょっとシュール。あっちゃんが頭をぽすって叩いた時は痛かったし、攻撃判定かどうかで変わるのかな。ほっぺツンツンされた時に肌が鉄みたいに動かないとか変だもんね。あっちゃんが怪力暴力装置なだけかもしれないけど。あのさ、もうこれどけていい?」
ワカナは腰が引けた衛士から槍を奪うと、石突で顎先を小突いた。ガギリと顎骨が弾ける音がし、衛士は口からダラダラと血を流しながらうずくまる。
「またまたやりすぎたなう。力加減むずかしいよお」
「凄いです、でもそれ以上にグロいです、ワカナパイセン!!」
リコの悲鳴混じりの声援を背に、ワカナは草刈り機で雑草を刈り取るように次々と衛士を処理していく。
「コイツはいったい何者だ………撤退しろ、撤退だ!!」
交戦を始めてから数分もしないうちに、衛士達は互いを杖代わりに這う這うの体で逃げ去っていった。
「………お前、化け物か」
兄は剣を下ろすと、驚きと恐怖、安堵と感謝、様々な感情が入り混じった声色で呟いた。
「カワイイ女の子に失礼なう。でも良かった、みんな無事に逃げられたかな」
「そうだな、お前のおかげだ、感謝する。それにすまなかった。謝って済む問題じゃないことは分かってるが、この通りだ」
兄が地に膝をつき頭を下げると、その瞳から零れ落ちた水滴が乾いた地面に次々と模様を描いていく。その涙に含まれているものがなんなのか、ワカナにはまだ理解することが出来なかった。




