落下
しまった、思わず声を出してしまった!!
「………誰かいるの?」
少女の動きがピタリと止まり、周囲をゆっくりと見回す。
不味い、このままでは見つかる。オレは咄嗟にアツコとナナセに散り散りとなって隠れるよう指示し、自らは近くの部屋に入り込みクローゼットの中に身を隠した。
こつんこつんと廊下に鳴り響く靴の音。先ほどまでの喧騒が嘘のように静まり返り、侵入者を探す一つの足音だけが渇いた空気を揺らしている。
オレは息を止め、目を閉じる。足音が止まる。どこかの部屋に入ったのだろうか。心臓の音が小さなクローゼットに反響し、この数メートルにも満たない空間を埋めていく。
どれほど時間が経っただろうか。足音は既になく、周囲に気配もない。どこかに行ったか。
アツコやナナセはどこにいるだろうか。あの二人に限って見つかるようなヘマはしないと思うが、実力はともかく感性はまだまだ少女と呼んでも差し支えない。急にバラバラになりこんなホラー空間に一人取り残されたことに恐怖を感じていることだろう。
オレは平気だけどな。全然怖くないし。
まあ3人一緒に行動するという手段もあったが、こういう時は一人ずつになるのがホラー映画の定番だ。物語序盤で離ればなれになったメンバーがお互いに探索パートを終えたあち終盤に合流するという流れがお約束である以上、趣味でホラーゲーを実況していた身としては単独行動を選ばざるを得ない。一塊になって行動するよりも、3人が別々に探索したほうが得られる情報も多いしな。
よし、いつまでもクローゼットに閉じこもっていても仕方ない。そろそろ洋館を調べるとするか。
意を決してゆっくりと目を開けると、真っ暗な闇のなかに二つの瞳が光っている。
二つの瞳?
「うぉおとおおおおさぉぅあああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
生まれてから一度も出したことのない声が口から飛び出し、オレは思いっきり後ろに飛びのいた!!
え、ここってクローゼットの中だったような………次の瞬間オレの身体が浮遊感に包まれ、視界は黒一色に染まり、そのまま深い闇に飲まれるように落ちていった。
ドシンという衝撃。
「あいたたたっ」
オレは反射的に腰に手を添えるが、心がくらったダメージとは裏腹に肉体には全く痛みがない。流石100レベルの肉体だ。
しかし、随分長い時間落下した気がする。1分近く落ちていたような………まあ、ただの体感だけども。
辺りをキョロキョロと見回すと、遠くに仄かな灯りが確認できる。オレは虫が街灯に引き寄せられるように灯りの方向に移動しようとするが、すぐさま顔が壁に当たる。手探りで周囲の構造を確認すると、どうやら細い通気口のようなものが奥に続いているらしい。奥に行くとなると容易に後戻りはできないな。
今なら魔法で元の場所に戻るのは簡単ではあるが………怪しげな洋館、見張りのアンデッド、落下罠に隠し通路、とにかく嫌な予感しかしないが、ここまで来たら進むしかない。恐らくこの場所を探り当てているのはオレだけだろう。
若干偶然に助けられた所があるような気もするが、この洋館の謎を解き明かし、背後に潜むアンブレラ………じゃなかった、巨大犯罪組織の陰謀を暴くことが出来れば名探偵イツキの実力を妹達に見せることができる。
ここは進む一択だ!!




