違和感の正体
ナナセがオレに会話を断ち切るように言った。オレはナナセに言われるがまま子どもを遠巻きに監視することが出来るポジションへと移動する。まあアツコへの説明が終わったらここに移動する予定だったから、これも特別ナナセの手を借りたという形にはならないんだろうな。
しかし、かくれんぼとは運が悪い。早く逃げないと見つかってしまう。
「兄さん、やっと兄さんが言っていた違和感の正体がわかりました、アレが証拠というわけですね」
ナナセが意味深なことを呟き、オレに目くばせをする。
ん?違和感の正体??なんのことを言ってるんだ??
「アレが証拠?いったい何を言っているの??」
アツコには分からないようだな、アレの正体が。
ほらっ、つまりアレだろ、ナナセ。ユー、勿体ぶらずに言っちゃいなよ。
「アツコ姉さん、あの子を見て」
ナナセの言葉にオレとアツコは物陰からピョコリと顔を出し、指さされた方を凝視する。多分これプレーリードッグみたいな感じになってるし、見つかったら間抜けだな。
そんな事を考えながらオレは改めて視線の先の少女を上から下までじっくりと観察する。ふむ、可愛らしい女の子だ。身なりもよく、髪も綺麗に束ねられている。如何にも裕福で何不自由なく育った良家の子女という感じだな。一見、特に変わった事はないような………………なんだと!!
そうか、ナナセお前が言いたかったことを完璧に理解したぞ。
「アツコ、気づかないのか、あの女の子の足元を見ろ」
オレはアツコに言いながらナナセの表情を横目で追うと、感慨深げに何回も頷く姿が目に入った。よかった、どうやら自力で正解に辿り着けたようだ。
「足元ですか………あっ」
アツコは小さく何かに気づいたかのような声を漏らし、口に手を当てた。
「そうだ、オレは最初から分かってはいたがアツコもようやく気づいたようだな。そう、あの少女は家でも靴を履いている。つまり、いつでもこの洋館から逃げ出す準備が出来ている、簡単に言えばこの洋館の存在を不自然に思わせないためだけに暮らしている偽の家族の一人なんだ!!そして、更に言えばワカナのように誘拐された少女達は、それぞれに役目を背負わされ、あの少女のように組織の仕事を肩代わりさせられているという実情も見抜くことができれば一人前だろう。そうだな、ナナセ」
オレがナナセに視線をうつすと、ナナセは特濃青汁を一気飲みでのしたかのような表情を浮かべている。すまないな、ナナセの手柄を独り占めするような形になってしまって。しかし、今日のナナセはあくまでアドバイザーだからな。結論は俺から言わなければいけない。仕方ないな、システム上、仕方ないことなんだ。
「なるほど、アンデッドな上に更に偽装家族でもあるという二重の保険がかけられているわけですね。アンデッドには家族はいないという自分の発想の狭さが恥ずかしいです。流石は兄様です」
ん?アンデッド??
アツコがオレに尊敬のまなざしを向ける背後で、ナナセがなにか懸命にジェスチャーをしている。空に向かって手で光を遮るようなポーズ………ああ、太陽が眩しいってことか。
ふむ、それで太陽の光が当たって………影か、手で影絵作ってるから影のことを言いたいのね、OKOK。
で、その影が………足?足の下に影が出来るってことか??いや、それはそうだろ、人でも影は出来るぞ。というか、影ができない物体なんて透明なものでもない限りないだろ。
そして、いきなり首筋にかみつくポーズしだしたぞ、吸血鬼のポーズか?
吸血鬼には、影がない。そんな感じか。なんか一生懸命、吸血鬼と影絵とバツのポーズ交互に繰り返してるからな。
女の子?ああ、さっきの子ね。あの子の足を見ろと。足が綺麗ってことか??
影、足、バツ、影、足、バツ………ひたすら3つのポーズを繰り返している。うーん、あの子の足には影がないって意味か??
そう言われれば影ないな、あの子。
最近の子は影が無かったりするんだな。
オレの小さい頃はみんな影あったけどな、時代の変化というのは恐ろしい。
………………んっ?影がない!?
「そうか、アンデッドか!!」
 




