葉を噛む
「わかったんだよ、全てが!!」
「え、あんな僅かな会話のなかに答えがあったんですか!?」
「樵だ」
「樵?」
「そうだ、ワカナ達はいま樵が使う樵小屋にいるんだ!普通であればこの時間に食事がとれる場所はないだろ?」
「でも野営をしている可能性も………」
「確かに食事をしているというだけなら分からなかった。しかし、さっきの会話を思い出すんだ。ワカナはトイレといった。そして、そんなワカナを見張る男のくぐもった声。明らかに扉越しに聞こえる声だったろ。野営ならばありえないシチュエーションだ。この森で犯罪者が誘拐した少女とともに安心して食事を取れる場所、それは樵小屋以外考えられないんだよ!!」
「流石です兄様!!完璧な推理です!!」
「アツコ、いつも言っているだろう。推理というのは音楽に似ている。心のまま思いつくアイデアというメロディーを解き放ってやるんだ。胸の奥で完成された楽曲の向こうに真実はあるのだから」
決まった、我ながら決まりすぎている。これはもう兄を超えて、探偵キャラ単体でも崇拝されるレベルだろう。怖い、我ながら自分の聡明な頭脳が怖いぞ!!
「それで、その樵小屋はどこにあるんですか?」
アツコの強迫にも似た敬意に満ちた眼差し。
「そう、それはだな………。なるほど、そういうことか。分からないかなぁ、ほらっ、発想のさ、翼をさ、広げてさ、自由にさ………思いついたか?」
「申し訳ありません兄様、浅学非才のこの身では到底想像もつかず………お教えください兄様、知りたいです」
オレはその無垢な瞳に背を向け、目の前の木から一枚の葉を千切った。
「兄様、その葉がどうかしたんですか?兄様………えっ!?」
オレは驚愕の声をあげるアツコを尻目にその葉を口に入れ、咀嚼する。
葉からは青臭い水分が迸り、鼻腔には「これは食べ物ではありません」という自然界からのメッセージが香りとなって刻まれる。日本人は草食だから森は食べ物の宝庫とか言った有名な軍人がいた気がするが、あれ嘘だな、だって、これ食べ物の味しないから。細胞単位で拒否してるから。
「アツコ、ナナセ、向こうだ。この葉の香り、間違いない」
「え、葉の香りがどうかしたんですか?兄様?兄様??」
ワカナが誘拐されたことに不安がるアツコの叫びを振り切るようにオレは先に進んだ。ちなみにナナセは葉を噛みしめたオレと同じような顔をしていた。




