種族は違えど兄妹です
「それにしても昨日の今日でよく抜けられたわね。」
「家族がいるわけでもないからな。嫁もいない、子どももいない、独り身の風来坊が夜逃げするだけなら難しい話じゃないさ。それにあのキレようから考えると、耳がくっつき次第あんた達の実力について何も伝えなかった俺の首を切り離しに来るだろうからな。荷物やらなんやら色々置いてきちまったが、首まで置いていくつもりはないぜ。まあその辺りは気が利く使用人に金でも握らせてあとから回収するさ。」
「こっそり夜逃げしたって割に距離が近すぎるんじゃない?エロ垂れ目は大領主なんでしょ。この辺りも領土なんじゃないの。」
「エルベスは王領なのさ。あれはバカでクズではあっても、金勘定とか根回しとかそういう小賢しい知恵だけは回る男でね。少々俺に恨みがあろうが王領に押し入ってまで無茶なことはしないさ。」
そんなことを話していると無愛想な女性が酒をドンッと5つテーブルに置いていった。
「さあ奢りだ、俺の新しい人生の門出と、美しき冒険者との出会い…あとはあれだ、金髪エロ垂れ目ざまあみろってことで乾杯だ!!」
いつの間にか蔑称が進化しているがまあいいか。
「乾杯!!」
オレはルーフェに合わせ高々とジャッキを掲げ、妹達はそんなおっさん2人に調子をあわせるためか申し訳程度にジョッキを揺らす。
酒は…恐らくエールだと思うのだが、口に入れた瞬間芳醇な香りが鼻腔に広がり、思いのほか美味い。
キンキンに冷えたビールの喉越しが好きなオレにとって常温のエールは少し物足りなさがあるが、ドイツなんかではビールも常温で飲むというし、そういう意味ではこれが本場の飲み方なのかもしれない。
「ところでひとつ聞いていいか。あんた達はどういう関係性なんだ?茶髪の嬢ちゃんがあんたの妹だってのは分かるんだが…そっちの2人は同郷のお友達か何かなのか?」
早速チュートリアル的な質問がきた!!
これから何度となく聞かれるだろうこの問いかけには、ちゃんと答えをちゃんと用意してある。
オレ達は遠い国の孤児院で育ち、院長が亡くなったことによりバラバラになる所を、先に冒険者として生計をたてていたオレが引き取る形で共に旅を始め、流れ流れてこの国にたどり着いた。
昔の話は妹達の辛い記憶を思い出させることになるから話したくない…完璧だ!!完璧すぎる!!
オレと妹達で孤児院にいた時期が違うことにすれば少々話が食い違っても問題ないし、致命的な矛盾が出たら妹達が小さかったから記憶があやふやだという事にすれば乗り切れるだろう。
我ながら素晴らしい創作スキルだ…まさか、これが異世界転生のボーナススキル!?
まだ妹達と口裏合わせはしていないが、この場で話して後からコンセンサスを取ってしまおう。
「オレ達は…」
「全員兄妹です。血の繋がった。」
アツコの言葉がオレの計画を土台からひっくり返す。
「兄妹!?全員がか?でも、あんたらは人間でそこにいる嬢ちゃんはエルフだろ?しかも、お仲間にはウェアキャットもいたような………俺はてっきり同じ孤児院で育ったからお互い兄妹として呼び合ってるとか、そういうのかと思ってたぜ。」
ああ、それオレのプランですね。
今からでもそっち採用して頂きたいんですが。
「腹違いです。」
アツコが真顔で言う。
ミカヅキとサヤは顔を覆い必死に笑いを堪えようとするが、残念ながら全然抑えられていない。
「本当か…いや、なかなか豪胆な親父さんだったんだな。」
ルーフェは何かを言おうとして飲み込んだ。
社会人であれば例え上司が思いっきりヅラだったとしても気づいてはいけない時がある。
時代や環境こそ違えど、彼にも立派な社会人スピリットが息づいていることを知り、オレは勝手にシンパシーを感じた。
「でも良かったぜ。あんたと美人五姉妹が良い関係だってことなら引き下がらなきゃならないが、妹なら俺が恋人として手を挙げても問題なしだ。将を射止めるためには馬からというし、仲良くしようぜ。」
「いえ問題大有りです。私達姉妹は全員兄様のことを愛しているので。」
アツコ真顔セカンド。
サヤは最早堪えるつもりもなくテーブルを叩きながら笑い、ミカヅキは顔を隠してつっぷしている。
「…そうか、自由なお国柄なんだな。」
ルーフェもそう言い顔を背けた。これ完璧にアツコが笑わせにいってると勘違いされてるな。
よし、このノリに乗じてルーフェから根掘り葉掘り情報を引き出すぞ!!




