奇妙な二人旅
「一度しか言わんからよく聞いておけ。お前がいた元の世界とこの世界は似て非なるものだ。お前はこの世界に飛ばされた。元の世界には………お前が今までいた場所には二度と戻れん。お前はもうこの世界で生きるしかない、過去のことは忘れろ。そして元いた世界のことは二度と口にするな。死にたくなければな」
俺が端的に事実を突きつけると、女はポカンと口をあけ、ただただ呆然とした表情でこちらを見つめる。突然の事態に状況が飲み込めないといったところか。
ちっ、だから女は好かん。
相手が男なら頬でも一発張って痛みで現実を思い知らせてやるところだが、女相手にそんなことをしたらどれだけ泣き叫ばれるかわかったものではない。
面倒だな、いっそこのままここに放っておくか。一日もあればヘルハウンドの餌になるだろう。しかし………。
「………あの」
女が何か言いたげな様子で距離を詰める。ようやく自分が置かれた立場を理解したのか。
「なんだ?」
「お前じゃありません」
「はぁ?」
「リコです。私の名前はヒナミ・リコ。リコって呼んでください」
俺を見つめる真剣なまなざし。
やはりバカだコイツは。それもとびきりのバカらしい。
「教えてください、名前」
女はそう言いながら、グイっと足を前に踏み出す。
異形のこの姿が恐ろしくはないのか?この世界がなんなのか疑問には思わないのか??
バカが考えることはわからん。わからんが………
「ストラダーレだ」
「ストラダーレさんですか、変わった名前ですね。でも私は好きです、なんか詩的な響きがして、カエルの王子様にピッタリです」
女は自分の言葉が面白いのか一人笑っている。
「ストラダーレさん、助けて頂いて本当にありがとうございます。あのまま噛みつかれてたら、私犬嫌いになって一緒に暮らしてるモコちゃん抱っこ出来なくなるところでした。あっ、モコちゃんって私の大事な家族で、トイプードルなんです。写真見ます?そうだ、スマホないんだった………」
女は訳の分からない事を呟きつつ、自分のポケットをポンポンと叩き、そして分かりやすく落ち込んだ。
「言っただろう、お前が元の世界でどんな人間だったかは知らん。ただお前がもう元の世界に帰ることはない。そして元の世界の話をここですることは自殺行為だ。二度と口にするな」
「わかりました。でも、わかりません。もしここが私の夢のなかでも、別の世界でも、絶対無理かどうかなんて、試さなきゃわからないじゃないですか。私ポジティブなんです」
「………そうか、勝手にしろ」
人の忠告を無下にする女にいつまでも構う必要もない。俺の言葉を信じないのも、このまま野垂れ死ぬのも、すべてはコイツの自由だ。
「勝手にしていいんですか?」
「好きにしろと言っている」
「じゃあ………ストラダーレさんに一緒についていきますね!!実を言うと………」
女が恥ずかしそうに腹部を両手で抑えると、グ~という間抜けな音が聞こえてきた。
「まったく、締まらんな」
ふんっ、厄介な拾い物をしてしまったが、変に賢く鋭い奴よりかはバカのほうがよほど扱いやすい。街まで案内する駄賃に持っている情報をすべて聞き出すとするか。




