昨日の敵は今日の友
「あ…すいません、大きな音たてちゃって…」
ビビリ…恐縮するオレを背に妹達はズカズカと中に入っていく。
この心の強さ見習いたい………でもミッドガルドでは当然ながらオレもギルドに入るのに遠慮なんかしなかったし、妹達にとってはこちらの世界に来てからのオレの行動はかなり珍妙なものに見えるんだろうなぁ。
兄として、妹達の創造主としてもっと毅然とした態度で生きていかなければ!!
オレは胸を張り、辺りを見回す。
冒険者ギルドのなかは思っていたよりも遥かに広く、奥行きがある構造となっている。
冒険者の待合所も兼ねているのか酒場も併設されていて、凄まじく酒臭い…正直妹達のようなうら若き乙女がいるような空間ではないな。
その証拠にオレ達がはいってきた瞬間から冒険者たちの視線はずっと妹達に釘付けであり、ぶっちゃけかなり不穏な空気が漂っている。
自分の実力に自信が持てない段階であれば絶対一目散に逃げだすところだ………オレが勝手に怯えてるだけのところもあるかもしれないけど、やっぱり冒険者ガラ悪すぎだろ!!
ただテーブルには明らかに老齢で戦う事が出来なさそうな者や、子どものような者もいて、案外大学の学食のように飲み食いだけをしに訪れている人間もいるかもしれない。
「おいてめぇ、さっきから何チラチラと見てるんだ!?」
そのうちの一人がいきなり絡んできた。
オレは思わず伸ばした背筋を丸め『いや別にそんなわけでは…』と言葉を濁す。
力自慢の酔っ払いが集まってるんだ、当然こうなるよなぁ…。
「女連れとは良いご身分だなぁ、一人オレに貸してくれよ。」
いきなり恫喝&セクハラ&女性差別の欲張りセット!!
よくここまで典型的な小物になれるなと感心しないでもないが、妹を巻き込む気であるなら流石に看過することはできない。
ここは得意の空手で…。
「おおっ、あんた達!!この前の異国の冒険者だろ、こっちだこっち、ここに座ってくれ。」
声のする方を向くと、真っ昼間っから男が一人、すっかり出来あがっている。
どこかで見たような…あっ。
「エロ垂れ目の部下の…。」
不味い、思わずさっき使っていた蔑称が口をついてしまった…何か言い訳をしなければ…。
「ハハハハハッ!!エロ垂れ目か、そりゃいい、その通りだ。俺も今日からアイツをエロ垂れ目と呼ぶことにするぜ。」
男…たしかルーフェとか言ったな。
ルーフェは大きな声で笑い、周りの冒険者は目をそらした。
さっきオレに絡んできた男も自分は無関係だと言わんばかりに顔をそむけている…一体何なんだ?
「貴方、あの男の部下でしょ。私達相手にそんな態度でいいの?見つけ次第斬り殺せくらい言われているんじゃない?」
アツコが無遠慮に座り、オレもそれに続く。
「やめてくれ、元部下だ。抜けてきたさ、今さっきな。」
「どうして?」
「まあ座ってくれ。我ながらめんどくさい男になってるのはよく分かるんだが、誰も俺のテーブルで一緒に飲んでくれなくてな。奢るぜ、俺はあんたたちのファンなんだ。」
「兄様、どうされますか?」
「お言葉に甘えよう。」
オレは少し考えたフリをしてから座る。
本音を言えば金が無い、情報がない、人脈がない、仕事すらないという無い無い尽くしのオレ達にとって、貴族の元で騎兵隊長まで務めたルーフェとかいう騎士の存在は極めて有難い。
この世界の通貨を持っていないなか、奢ってくれるというなら尚更だ。
ただ酒バンザイ!!
ビバただ酒!!
「しかし、あのエロ垂れ目が癇癪を起こして地団駄踏んでる間抜けな姿、額に入れて飾りたいくらいだったぜ。最高の気分ってやつだな。」
ルーフェはそういうとジョッキをグイっとあおり、一気に中身を飲み干した。
なかなかの酒豪っぷりだが、一昨日会った時とは随分印象が違う。
オレ達と対峙した際は仕事モードだったんだろうな…仕事の時は自分という存在を切り離して、違う人格として働かなければやってられないというのは、凄いよく分かる気がしてオレは思わず云々と共感してしまった。
「どうして私達の仕業だと思ったの?」
ミカヅキが問う。
「使用人が騒いでる内容を聞けば一発さ。女5人に男1人の冒険者なんて滅多にいないからな………それに。」
「それに?」
「昨日面と向かって対峙してあんた達の実力はなんとなく想像がついたのさ。身のこなし、立ち振る舞い、視線の動きから気配に至るまで、僅かな所作からにじみ出る強さってのは、隠そうと思ってもなかなか隠しとおせるものじゃないからな。」
「貴方の実力もね。一度手合わせ願いたいわ。」
アツコが会話に割って入る。
「冗談やめてくれ。せっかく宮仕えをやめられたんだ。元の冒険者でもやりながらのんびり暮らそうって時に大怪我は勘弁だ。」
ルーフェはわざとらしく両手を広げ、首を振る。




